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フールの鉛筆画ブログ

鉛筆画のイラストや絵を中心に描いています。黒髪が大好きです。時々短編小説も書きます。

高二ストレンジR-ivers  エピローグ

短編小説 高二ストレンジ 黒髪ロング

↓前回
thefool199485.hatenadiary.com


四週間目 放課後

 以前、赤崎と一緒に来た公園に、僕とスピネルは訪れた。何故か、公園には子供たちが全くいなかった。おそらく近隣でお祭りでもやっているのだろう。現に耳を済ますとそれっぽい音が聞こえてくる。
 僕はなかばスピネルに強引につれてこられた形だ。サンダーと話し合った結果を話すとかなんとかと言っていたが、詳しいことは何一つ、スピネルの口から聞けなかった。
 公園の中程まで歩いたとき、不意にスピネルが聞いてきた。
 「ねぇ、あのさ」
 「何?」
 「どうしてさ、最近声かけてくれないの?寝不足もひどいみたいだし」
 「何でもない」
 スピネルの問いかけに対して、僕はぶっきらぼうに返事をした。
 スピネルは必死の形相で僕にもう一度問いかけてきた。
 「何か悩みごとがあったら言って。あなた、前に言ってでしょ。言葉にして伝えるのは大切なことだって」
 ちっ、このタイミングで僕の言葉を引用してくるとは。これじゃ、答えざるを得ない。僕は声を低くして、スピネルに答えた。
 「いいんだ。僕の問題だよ。スピネルは関係ない」
 まだ、諦めきれていない自分に腹が立つ。もう、終わったことなのに。そして、ポロっと本音を言ってしまった。
 「君は幸せなんだろ?いいじゃん、それで」

 その一言がきっかけだった。

 「よくない!わたしは他人を踏み台にしてまで幸せを得ようとは思わない!」
 一息ついて、スピネルの表情が息を吹き替えした。どんどん顔が赤くなっていく。暁色の髪の毛が、スピネルの意思をうつしだすかのように波打った。
 息をスゥと吸い込むと、スピネルは一気に吐き出した。
 「大体!あなたがここまでするとは思っていなかった!誰にも相談せず、あなたが勝手に行動して、サンダーとわたしを結びつけて。それで、わたしたちが幸せになるとでも思ってるの?!わたしとサンダーはね、あれからずっとあなたの事を心配しているんだよ」
 余りに突然の爆発で僕はスピネルの気迫に動けなくなってしまった。
 「『自分の気持ちを押し殺して友達付き合いをしてもうまくいかない』って言ってたのあなたでしょ!何でわたしやサンダーに自分の本心を伝えてくれないの?わたしたち……友達じゃないの?」
 僕は怒り心頭のスピネルを眺めた。怒りの中にひどく寂しげなものが混ざっている気がする。
 「ああそうさ!僕はスピネル達の中には入れない。同じ中学じゃなかった。知り会うのが遅かった。仲良くなれない理由としては十分だ!」
 「わたしたち、今まで昼休み仲良く話していたでしょ!そんなの言い訳にならないよ!」
 スピネルが僕に対してはっきりとした意思表示をするのはこれが初めてかもしれない。
 僕はスピネルの気迫に完全に押されていた。絶対に僕の気持ちは伝えない、僕の覚悟が今まさに崩れようとしている。
 「ねぇ、お願いだから正直な気持ち話して。今まで何度も聞かれてうんざりしているのはわかってる。でもね、わたしたち━━いや、わたしは、あなたとはただの友達で終わらせたくない」
 なんで怒りに満ちているのにそんなに苦しそうなんだ、スピネル!
 僕は混乱の余り顔を伏せた。
 ああっ、いよいよもって、僕がなんのためにどうしたのか、わからなくなった。僕だけが傷つけばいいのに、どうしてスピネルがこころの底から苦んでいるんだ。わからない。
 サンダーと結ばれて、めでたしめでたし、じゃないのか?
 生物学的に考えてもわからない。
 スピネルがわからない。僕はあれだけ色んな話を聞いてきたのに、これだけスピネルを想っているのに、スピネルのこころについて何も理解してあげることが出来なかった。
 そもそも僕とスピネルの関係はなんなんだ。友達か?知り合いか?それとも知り合って一ヶ月のアカの他人か?
 目尻に熱いものを感じる。顔が熱い。
 もうわけがわからない!
 「こっちはな!授業中も休み時間も下校中も家に帰っても寝ようとしても!君の笑顔が忘れられないんだ」
 あっ、なっ涙が。
 「一週間なにも食べていない状態で、目の前に食い物が置かれて、その皿に『これは山田のもの!』って書いてあるのと同じだ。どのみち食えないものだったら、わざわざ目の前に置くなって。こんなの、拷問だよ」
 やばっ。
 「知り合ったのが遅かっただけで、なんで……。なんで……」
 顔に手を当てて溢れる涙を止めようとした。涙なんて、しかも悔し涙なんて絶対に見せたくなかった。押さえようとしても漏れ出してくる。情動失禁か?ちくしょう!
 「正直に言ってくれてありがとう」
 頭のてっぺんにに温かいものを感じた。そのぬくもりはゆっくりと何度も、僕の頭の後ろまで降りていった。
 僕が撫でられている、ということに気づくまでかなり時間がかかった。
 「あなた、わたしのこと、どう思っているの?」
 とても優しい声だった。怒りなんてこれっぽっちも感じない声。母親が子供をあやすとき、こんな声を出しそうだ。
 僕はどうやらスピネル、そしてサンダーに敗れてしまったらしい。
 サンダーのために必死に尽くしたのに、今の会話で全てを台無しにしてしまった。僕の心をスピネルが知った今、スピネルを介してサンダーがこのことを知ってしまう。喧嘩したときの僕の嘘も、スピネルによって、サンダーにもうばれている。サンダーはスピネルと別れてでも僕にスピネルを譲るだろう。そして恐らく、すでに二人はそこまで話し合っている。
 僕は二人の手で解放されてしまったんだ。もはや、なんのしがらみもない。スピネルの問いかけをごまかす必要もなくなってしまった。
 もう、僕には自分のこころしか残されていなかった。
 「スピネル、僕に自信をくれないか?今、すごく怖いんだ。今までの関係が壊れるのが恐ろしいんだ」
 スピネルは学生服の内側に手を入れると、何かをつかむ仕草をした。その次に僕の手をとり、何かを小さなものを手のひらに置いた。よく見るとそれは、漆黒の宝石が施されている指輪だった。
 「大丈夫。『スピネル』は自分の個性を高めて、夢や目標にたどり着く力を与えるの。迷信、だけどね」
 「本当に『スピネル』が好きなんだな」
 「フッ……フッ……フッ……!」
 いかにもスピネルらしい、独特な元気付けだった。
 今ので気が抜けたみたいだ。今まで押さえてきた涙がいっせいに僕の頬に流れ落ちてきた。手で押さえる気もなくなった。

━━ずっと、好きだった━━

 僕はこの四月の頭からずっと言えなかったことをスピネルに伝えた。顔が涙でぐしゃぐしゃな上、喉がしゃくれてうまく言えなかったけど、多分、スピネルには伝わった。
 スピネルは返事の代わりに、子供のように混じりけのない微笑みを浮かべた。スピネルもようやく過去から解放されたのたみたいだ。
 太陽の光に照らされて、彼女の髪の毛が宝石のように輝いた。風に揺られ、万華鏡のように姿を変える。
 「ベンチに座るか。立つの疲れただろ?」
 僕は手頃なベンチに腰をおろした。
 「隣、いい?」
 昼休みに毎日聞く言葉に、僕はいつも通り答えた。
 「どうぞ」
 長い沈黙のあと、スピネルはもう一度呟いた。
 「これからもずっと隣にいていい?」



 「……どうぞ」