高二ストレンジR 短編小説
↓前回
二週間目 夕暮れ
プルルルルーッ、ガチャ!
「……もしもし、スピネルだけど」
「もぉーしもぉーし、スゥちゃん?」
「……久しぶり、ミキヨ」
「どったの?ところで体調は大丈夫?」
「ようやくおさまったよ。辛いものね。ところで生物君の事なんだけど」
「ああ、あの馬鹿か」
けたけた笑うアタシ、白辺ミキヨに対してスピネルは怪訝に答えた。
「ミキヨ、言い過ぎじゃないの?」
「おお、怖い怖い♪あいつに恋でもしたの?恋の悩みだったら相談にのるよ?」
「そうじゃないって!逆逆!」
スピネルの声が荒ぶっている。あはは、結構元気じゃん。声は。からかっちゃお。
「えっ、何も進展してないの?てっきり生物君からスゥちゃんのこと聞かれたから……」
スピネルの声が動揺しているのがわかる。髪をいじりる音が聞こえた。どちらかと言うと照れてあわてる、と言うよりは青ざめる、という表現がしっくり来る。予想通りの反応だった。
「何があったの?」
「単純に小学校の頃のスゥちゃんがどういうコだったのかを話しただけだよ」
スピネルは小さな声になっていた。少し聞き取りづらい。
「……中学時代の話は?」
「もちろん、話してないよ。んで、何が聞きたかったの?」
はぁ、とため息と共に彼女が髪を揺らす音が聞こえる。一挙動がいちいち笑える。
「ああ、そうだった。生物君の中学時代を聞きたいの。たしか中学一緒だったんでしょ?」
「あいつの中学時代か」
━━三年半前━━
「最初に同級生から声をかけられてな。Aさんと付き合いたいからどうにかしてくれって」
「へぇ」
「それでAさんと、同級生の間を取り持ったんだ。そのうち僕もAさんを意識するようになってな」
「告白したの?」
「結論急ぎすぎだろ!まあ、そのあと僕も告白しようか結構悩んでな。Aさん、浮気性があったし。結局二人とも撃沈したけど。そのあと全く知らない第三の男とAさんが付き合い初めて」
「なるほどね」
「半年後、なぜかAさんの隣を例の同級生が陣取っていたけどな」
「は?」
「わかっていても、辛いものは辛いな。トラウマもんだよ、ほんと。」
━━二年半前━━
「……親友の方が大切だからな。それにさ、中学って恋人とかまだ珍しいからクラス中から弄られてね。泣く泣く彼女とは別れたよ。それに、僕を虐めるあいつの気持ちもわからなくはなかったし」
「先に彼女が出来たアンタへの嫉妬心か。アタシなら絶交するだろうけど生物君はやさしいね」
「……別れ際の元カノ、電話の奥で泣いてたよ。僕はなにもできず、電話を切った。彼女といる喜びより、クラスメイトとか親友からの嫌がらせが辛くて……」
「そっか。まっ、気にしないことだね」
「……ちなみに、今の親友の彼女、今話した僕の元カノなんだ」
「……へ?」
「僕に振られて心を病んでいたときに慰めてくれたのがきっかけで……付き合い始めたらしい」
「えっ……でも、彼女とアンタが別れた理由って!」
「もはや誰を信用していいんだかな」
━━現在━━
「こんな感じかな?」
「……本当の話?」
「うん。まあ、多少は省略してるし、実際起きたことは端からみたらもっと残酷だったけど」
スピネルの声の小ささに拍車がかかった。もはや小動物。アタシは言い過ぎだったか、と
「でも、本人もネタにしてるくらいだし、気にしなくて大丈夫だよ。まあ、ああ見えてアイツはアタシよりも苦労して育ってるよ。あはははは♪」
申し訳程度に付け足した。でも、このタイミングで言っておかないと生物君があまりに不憫だ。
「ところで、スピネル」
「何?」
「サンダーと何かあった?」
「……っ!!」
「サンダーの様子が変だったし、もちろん今の話に必要以上に動揺するスゥちゃん自身もそう。何よりその髪型。大方その吐き気もストレスからでしょ?『大丈夫』だなんて嘘つかないでさ、アタシに話してよ」
大半が生物君からの情報だった。赤崎もアタシに『何かあったら教えてくれ』とか言ってくるし。
長く重い沈黙の後、スピネルが答えた。
「振られたの。山田くんに」
得たいの知れないものを感じてアタシは黙っていた。複雑な感情が電話越しに伝わってくる。
吐息の音がスマホから聴こえてきた。半分泣きたくなるのを我慢しているらしい。
「………………わたしは過去には負けない!運命にも負けない!わたしは勝利を呼ぶ宝石!こんなことじゃ諦めない!絶っ対に、幸せになってやる!」
ありゃりゃ痛い事言うな、と思いながらアタシは黙ってスピネルの悩みを聞き取り続けた。