高二、二日目 放課後
前回
thefool199485.hatenadiary.com
「やま……山田(さんだ)、号令」
「起立、きをつけ。礼」
「あーしゃー(ありがとうございました)」
随分と雑な挨拶だ。
ホームルームが終わった直後、教室のドアから背の高い生徒が入ってきた。何人もの友人に挨拶と微笑みを投げかけつつ、彼は僕の席へとやってきた。彼の行くところ人だかりあり。
「よっ、生物くん。もし予定がなければ一緒に帰らないか?」
「いいよ。それにしても相変わらず人気者だな、赤崎」
赤崎のいる場所だけ教室から切り離されたかのように輝いて見える。圧倒的な求心力。それが赤崎滝与だった。
僕は荷物を整え、赤崎と一緒に教室を後にした。
「んで、何で僕と帰ろうと思ったんだ?」
僕は夕日に照らされて映画俳優か何かに見える赤崎に質問した。
「二年になってから殆ど話せなかったからな。久しぶりにゆっくり話したかった。主に今日の生物の授業について」
「皮肉にしか聞こえないぞ。偏差値60め」
赤崎は僕の言葉を聞いて爽やかに笑った。赤崎と一緒にいるといかに天は不平等かを思い知らされる。細いめに整った顔。生物学てきに狂ってやがる。
「ところでだ、最近スピネルとつるんでいるみたいだが、どういう関係だ?いつの間にあんなに仲良くなったんだ」
「いや、ごくごく自然な流れで、……って何でそんなことを?」
赤崎は少し面白そうに言った。
「ああ、スピネルはオレの中学からの『友達』だ。意外な所で友達同士が絡んでいていたんで気になったんだ。仲が良ければ三人で遊びにいったりとかも出来るだろう?」
赤崎は友達が多いため、複数人で遊びにいかないと、一人の友達を一ヶ月以上『遊び待ち』させてしまう、とか前に言っていた。ここまで来ると八方美人も凄まじい。
「そう言えば、スピネルは中学時代どんな感じだったんだ?」
実は今僕が一番赤崎に聞きたいことだった。さっきの赤崎の『友達』という単語を聞いてから、何故だか気になって仕方がない。不思議なもんだ。
「そうか。スピネルの中学時代は、そうだな。色々あったが、前から魅力的だったよ。仲良くなって損はない。オレが保証する。ただ一つだけ」
「?」
「もしスピネルと付き合うつもりになったら、オレに相談してくれ」
「はぁ?何で?」
赤崎は急に真剣な顔になった。
「どうしても、だ。覚えておけよ」
僕には赤崎の言葉は一種の警告に聞こえた。恐らく、なにも考えず告白したら確実に痛い目を見る、何て優しいものでもない。赤崎は友人が多い分色んな情報を持っている。白黒混じった、だけど確かな情報。
そして何より赤崎は嘘をつかない。
「わかった。頭の片隅にキープしておくよ」
人の10倍友達の事を考えて一番いいと思ったことを話す。
「ただ、生物くん、お前がオレの忠告を無視したら、オレは君の意思を尊重する」
「ありがとう、赤崎」
「じゃあお礼に生物教えてくれよ」
ポン、と赤崎に肩を叩かれた。困ったときは相談してくれ、とでも言いたげな顔だった。
なぜこの聖人擬きの彼女がいないのか、僕にはわからなかった。