フールの鉛筆画ブログ

鉛筆画のイラストや絵を中心に描いています。黒髪が大好きです。時々短編小説も書きます。

高二ストレンジRー5

 僕は柏木と赤崎の話し合いを聞いた後、赤崎にさらに細かい事情を聞いた。そして帰り道赤崎と別れ、山田に電話をかけたのだった。
 スマホ越しにサンダーの声が月夜に響く。
 「━━これが俺の知っている全てだ。つまり、生物君が察した通り、柏木の言ったことはあながち間違いじゃない。スピネルは実際、柏木にぶちギレて殴りかかった拍子に自分でアザを数個作ってる。きっかけは『炎に水素ガスを吹き付けるような』事を言った柏木の自業自得だけどねぇ」
 「じゃあ、赤崎は嘘をついていたのか?」
 「それも違う。スピネルのアザや様子、これまでの柏木の所業を総合して判断すれば赤崎の結論にたどり着くんだ。解釈の違いだよ。客観的事実をもとに判断するか、柏木の影響をもろに食らったであろうスピネルの言葉を信じるか。エタノールメタノールくらい効果はかわるがな」
 「もうひとつ聞かせてくれ、山田は何であのとき柏木について触れなかったんだ?」
 「ああ。柏木は『自分のために人を動かす』。しかも、人の気持ちを考えるのが苦手な癖に、人を掌握する力は赤崎のそれを越える。生物君が迂闊にに柏木のことを調べて、その余波を受けるのを恐れたんだ。まあ、まさか相手方からちょっかい出されるとは、思わなかったけど。さすが柏木だよ」
 「……本当は、どうなんだ?」
 「え?」
 「それだったら僕に最初から警告すればいいだろ?『柏木は危ない』って」
 「……察しいいな。……そうだよ。本当はスピネルと赤崎の名誉に関わるから言えなかった。特に赤崎に関しては『障害』についても触れなきゃいけないしな。
 しかも、中学時代のスピネルの脆さ、赤崎の思い込み、どちらも普通に友達付き合いをする上で知る必要のないことだ。知らない方が友達としていい関係を築ける、逆に知られたら生物君が二人を嫌ってしまうかもしれない、そう思ったんだ。全部杞憂だったけどな。生物君、ごめんな。お前オゾン層並にいい奴だよ」
 「そういうことだったのか……。やっぱ、山田はサンダーだな」
「誉め言葉として受け取っておくよ。あと、俺からひとつお願いがあるんだが━━」



 僕はサンダーと数分話した後、礼を言い、電話を切った。
 月明かりのなか、僕は家に下校せず歩く。歩きながら僕は赤崎や山田、柏木、白辺さんから聞いたスピネルについてのこれまでの話を思い出し、大きなため息をついた。



━━



 最初に中学二年の時、山田がスピネルと付き合っていた。しかし、山田は自分の幸せを謳歌するあまり、スピネルへの思いやりがおなざりになってしまう。
 その事を気に病み、スピネルが意気消沈している所を、柏木に声をかけられ相談にのってもらう。最初は一度きりと思っていたものの、何度も出会いズルズル引きずっているうちに事実上の二股関係となってしまう。

 スピネルはその間、山田への申し訳なさと二人と付き合う体力がなかったことでどんどん疲弊していった。

 山田はスピネルへの異変に気づき、友人が多い赤崎に調査を依頼する。当時山田と友達でも何でもなかった赤崎は、山田に乗せられ興味本意で承諾する。
 スピネルは柏木に悩みを聞いてもらった借があるため、柏木に迷惑をかけないために演技をつくし、柏木は柏木でスピネルに無駄な罪を着せないため隠蔽を図った。

 だが、スピネルにとって二人と付き合いつつ事実を隠すのは並大抵のストレスではなかった。やがてスピネルは山田に事実を隠すことへの罪悪感が限界に達する。情緒不安定になり、相談に乗ってくれたはずの柏木に八つ当たりをし、あろうことか殴りかかってしまう。柏木はどうにかスピネルを治めることに成功したが、その時にスピネルは数ヶ所アザを負ってしまう。

 そのアザがきっかけでスピネルは赤崎の追求を受けることになった。スピネルは演技と精神力でそれを退ける。しかしそれが逆に赤崎に『柏木によってスピネルが洗脳された』というあらぬ勘違いを引き起こしてしまった。

 やがて、スピネルの努力むなしく、担任教師と山田と赤崎の三人の手によってスピネルのもう一人の彼氏、柏木についてばれてしまう。
 同時にこの事件とは全く関係のない、柏木が人望とカリスマ性を得るために行っていた『裏工作』がすべて露出してしまい、柏木曰く『そっちが原因で』精神病院に連れていかれた。
 スピネルはこの事件直後、抑鬱状態になりかけたが、心を入れ替えた山田の必死の訴えと赤崎のサポートによって回復する。
 これが事件の顛末だった。



━━



 僕は無意識のうちに犯人探しをしていた。調べていく内に出会った柏木は、人間的に欠陥があると言ってもいい人物ではあった。そのうちスピネルのもう一人の彼氏だった柏木を『絶対悪』と決めつけていた。

 でもそれは僕の最悪の思い込みで、本当はみんなが必死に色んなことを考えて動いた結果が今回の事件だった。 動機はどうであれ、『あの』柏木ですら(建前かもしれないが)常にスピネルを助ける形で動いていた。

 完全な悪人なんて殆ど存在しない。完全な善人も殆ど存在しない。世界の99%の人間は比率こそ個人差があるものの、善と悪が混ざりあった『灰色』なんだ。僕も含めて。むしろ僕は、黒の割合が多いのかも知れない。
 僕は自分の間違いに今、ようやく気づいた。

 だとしたら、僕にも柏木のように自分の願いのために強欲になり、それすら全部人のせいにしてしまうような、残酷な一面もあるに違いない。山田のように注意の無さから、取り返しのつかないような失敗するような一面もある。それに今回、僕は赤崎のように決めつけだけで人を判断してしまった。
 そういう認めたくない面も『自分』として受け入れなければ、僕はいつまでも成長できないだろう。

 そして恐らく、子供のままの僕に『スピネル』は決して振り向いてくれない。

 僕は偶然見つけた自動販売機で、ブラックコーヒーのボタンを押す。夕暮れ時はとっくに過ぎ、自販機の明かりが少し目にくる。
 苦いコーヒーに口をつけたとき、不意にスピネルの後ろ髪が頭に浮かんで出てきて僕は焦る。空想のなかのスピネルは振り向いて僕に微笑みかけてきた。毎日昼休みに見ているのに、なんだか懐かしい。

 僕はあわよくばスピネルの深く知って、それをきっかけに仲良くなろうとしていたのかもしれない。
 でも、スピネルを深く知れば知るほど彼女は遠くへと離れていく。最高の皮肉だ。
 僕はコーヒーを一気に飲み干し、缶を握りつぶしてから乱雑にリサイクルボックスのなかにぶちこんだ。
 僕は大きく息を吸い込んで、盛大にため息をついたあと、家に向かってあるきだした。