フゥルの鉛筆画ブログ

鉛筆画のイラストや絵を中心に描いています。黒髪が大好きです。時々短編小説も書きます。

信頼関係 短編小説

二週間目 放課後
thefool199485.hatenadiary.com

 「ではやま……山田(さんだ)くん。号令を」
 「起立、気をつけ、礼」
 「あーーっしゃーー(ありがとうこざいました)」
 サンダーの雑な号令で挨拶したあと、僕は学校から帰る準備をした。スピネルが心配だ……と思ったら視界の端に、神速で教室から去るスピネルが写った。
 確か家帰る方向一緒だったよな。
 僕も早々と学校を後にした。

 学校が出て早々、量膝にてをつき地面を睨み付けているスピネルを見つけた。
 「おい、スピネル!」
 スピネルはこちらを見ようともしなかった。地面を睨み付けたまま必死の形相をしている。僕は慌ててスピネルの元へ駆け寄った。
 「……はぁ、はぁ、あなたね。てっきり山田だと」
 「悪かったなサンダーでなくて」
 「見苦しいところを見せちゃった」
 そう言ってスピネルは鼻をすすった。前髪が汚れないためのポニーテールか。僕は一瞬排水溝を見てから言った。
 「しょうがないさ。生理現象だ。腸が何らかの影響で動かなくなると、体の方が勝手にやらせるんだ。迷惑な話だよな」
 しょうもない励ましか方だ。
 スピネルが僕に手のひらをつきだした。
 「……ごめん、また、うぐっ」
 「全部出せ。そっちの方が体にいい」
 背中を擦りながら意味不明な家庭の医学をスピネルに話した。



 「……本当にごめんなさい申し訳ありませんでした学校の学校の皆には言わないでくださいお願いしますもうしませんから」
 スピネルがしゃがみこんだまま地面に向かって謝っていた。
 「大丈夫だから。一端深呼吸」
 それにしても驚くほど顔が青白い。解剖見学で見たご遺体程ではないが、それでも普通の人とくらべたらマズイことは一目瞭然だった。たって歩くのもつらそうだ。
 「背負うか?」
 「……恥ずかしいし誤解される」
 「僕に?体重を?」
 「……ええ、そう……って違う!」
 「言ってる場合か?」
 「……汚れちゃうよ?」
 「後でホルマリンで消毒する」
 「……制服をホルマリン漬けで消毒?いい趣味ね」
 「オレの制服は薬品に強いんだ――ハイターには勝てなかったけど」
 「……ダメじゃん。無理しないで」
 力なくスピネルが笑った。その様子が痛々しい。
 僕はスピネルに手を差し出した。
 「……悪いわね」
 物凄く久しぶりに女子の手を触った。僕の手よりは冷えているが、それでも暖かい。
 彼女は僕の手を握ったまま、フラフラした足で僕の後ろに行く。
 「じゃあ、お言葉に甘えて」
 心地よい重さが背中を包み込んだ。背中に天使が舞い降りたらしい。僕はすかさずスピネルの足に手をかけた。むにゅっとした感触に一瞬ドキリとする。
 「よっと。随分軽いな」
 「……あなた、さっきと言ってること逆よ……っていうかアレを見た後、本当にわたしを背負うなんて……このお人好し!」
 フフフ。僕は微笑みを浮かべながら歩き始めた。さりげなく、途中にあった例の自販機でミネラルウォーターを買う。
 「道筋を教えてくれ。指で指すだけでいいから」
 「……世話のやけるやつ」
 「お前が言うな!」
 「……フッ……フッ……フッ」
 さすがにスピネルも疲れたようで黙ってしまった。きっとさっきの会話もスピネルなりの恩返しだっあんだろう。無理しなくていいのに。
 なにもしてくれなくても、こっちは嬉しいんだ。僕を必要としてくれるだけで、な。

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