欠落
すさまじい広さの公園。人が行き交いお祭りでもないのに屋台が出ていた。人通りも多く、あたりは都会特有のざわめきに包まれている。わたしは人ごみの声に負けないくらい甲高く響く蝉の声を聞きながら足を進めた。
公園の道端に骨とう品バザーがあった。おそらく定期的に開催されるものだと思う。テントや机が並んでいて、時代に取り残されていてもなお輝き続ける物たちが売られていた。わたしは興味本位で骨とう品店をのぞいてみることにした。
どこかの知らない国の通貨、竜の木彫り彫刻、何年も前の古ぼけた雑誌。そんなものがたくさん売られていた。でも、まだ十代のわたしにはその価値も値打も全くわからない。わたしは少し眺めては次の店、次の店と、流れるように店舗を回った。
最後の一店舗。わたしの足は凍りついたようにその店に止まった。異様だった。騒がしく、華やかな公園の雰囲気に対して、その店だけ暗く、重い醸し出していた。
まず目に入ったのが店の右下に飾られている足の補強具だった。使い古されたのだろう。酷く痛んでいる。その上にコルセットが添えられていた。よく見るとその二つはテントの天井から一本の糸でつりさげられていた。
少し目を上に動かした。その瞬間、わたしの体は意識せずに後退していた。目の前に見える「もの」から眼をそらしてしまった。
黒い寂着いたかごの中に一体の少年の人形が座っていた。
その人形から恐ろしいほどの閉塞感を感じた。何度も見ようと顔を動かしたけれど、体は言うことを聞いてくれなかった。
わたしは右に顔をそらした。今度は手足も首もない服も纏っていない、体をくりぬかれたマネキンが棚の上に立たされていた。くりぬかれた腹部の小窓からは何かが出ていた。でも、あんまりよく覚えていない。最後が衝撃的すぎて。
わたしは店の右奥に目を向けた。さっき見た人形と同じく、手足首がない裸のマネキンが上からつりさげられていた。本来腕のついているはずの肩口から、白い翼が生えていた。
そして、最後。正面奥。
そこには歯を見せて笑う人形が浮かんでいた。服も着ていた。赤を基調とした明るい色だった。
でも、手がない。
でも、足がない。
青い瞳の表情豊かな笑顔の顔は、劣化と人形特有の茶色い汚れによってゆがめられていた。
わたしはそれを見た瞬間強い衝撃を受けた。こういう芸術もある、と自分に言い聞かせた。でも、ここは骨とう品店。全て実際に使われたもの。あの人形たちの体は芸術品のように欠けるべくして欠かされたのではなく、何かの間違いによって欠落してしまったのだ。わたしはこの人形や矯正具たちがどんな過去を送ってきたのか、想像することすらできなかった。
わたしは恐ろしくなって逃げるようにその店から離れた。
普通の洋服店に飾られているマネキンの顔がやけに眩しかった。