ルイージの小説 44 分岐 第八章
わたしの足元で皆既日食が起こっている。
ここからだと一般家庭にある円状テーブルくらいの規模にしか見えないが、
恐らく途方もなく巨大なものだろう。
漆黒の月の淵からもれるコロナがすばらしい。
大宇宙の神秘を感じる。
でも周囲は宇宙ではなく、流動的な炎が包んでいる。
つまりわたしの足元は黒い月の周りを炎が埋め尽くしている
すさまじい状態というわけだ。
それに対し上空は漆黒の夜空に星が瞬いているという、
常識が吹っ飛んだありえない空間だ。
幻想的だけどわたしの数メートル先の道化師が目障りで仕方がない。
「きれいだろう★
これ、全部ボクのものなんだ。
ルイージはボクだけのもの。
でも・・・」
ディメーンはわたしに誘いをかけてきた。
「キミに分けることもできる。
ボクはイヤなんだ。
不完全なこの世界がね。
だから、全部壊してまた0から作り直そうと思うんだ。
そうすれば、今の世界みたいに不公平はなくなるし、
みんな願いがかなうし、死なずにすむ。
パーエフェクトな世界をつくろうよ~。
悲しみも憎しみもないカンペキな世界を!
スバラシイとは思わないか~い?」
すごい理想主義者ね。
でもわたしはそんなの必要ない。
悲しみも憎しみも不幸も全部いやなものを取り払ったら、
いいものは価値を失う。
たとえば死がなくなれば生きていることの大半の意味を失う。
やがて死ぬからこそ人は全力で生きるのだ。
願いがかなわないからこそ願いかなったとき嬉しいし、
新しい願いも産まれる。
「わたしは賛成できない。
そんなの単なるわがまま。」
ディメーンは駄々をこねる子供をあやすような口調で言った。
「わがままじゃないよ~。
これが許されない今の世界が堅苦しすぎるんだ。
規律にうるさいうえに汚い所をボクらから隠してる。
こんないかがわしい世界なんか消えた方がいい。
だ・か・ら、
スピネルも一緒に世界を作り直そうよ。
君たちの世界も絶対よくなるって~~♪」
何を言っても聞きそうにないわね。
「イヤだ。
そんなに自分の思い通りにしたいなら
勝手に一人で自分の世界に閉じこもっていればいいじゃない。
妄想という名の世界で。」
ディメーンは黒い人差し指を左右に振ると
「チッチッチ。
スピネル、君はルイージをどんなに強く頭の中で抱いても
それは本物とどこか違うだろう~?」
正論だ。
「だから、スピネル、世界を変えるんだ。
一緒にね~~。
そして、新しき世界の王と王女になるんだ!」
ふざけてる。
狂ってる。
「ルイージはあなたのものじゃない!
誰のものでもない!
ルイージ自身のもの!
消えなさい!
道化師!」
ディメーンは軽くため息をつき
「そう、なら、キミをここで倒してキミもボクのものにしてあげるよ。」
ボクのものって・・・。
考えるだけで悪寒がした。
吐き気がした。
赤い宝石を額に持つカーバンクルの姿に変身し、
呪文詠唱に入る。
氷柱
≪コルーメン グラシアス≫
ディメーンは瞬間移動であっさりとかわした。
どこに?
ああ!
星型弾が頭上から降ってきた。
飛びのいて再び魔法を放つ。
火炎
≪フラーマ≫
一抱えもある炎の弾が上空の道化師に向かって放たれた。
「イッツァショ~タ~~イム!」
ディメーンは楽しげな笑い声とともにまたしても瞬間移動。
そして、わたしの背中に衝撃が走る。
「ウッ・・・。」
後ろ!
雷
≪トリトルア≫
轟音と光とともに雷がディメーンに落ちた。
とうとうかわしきれずに奴に直撃する。
あいつがしびれているうちに!
魔力
≪ベネフィシア≫
疾風
≪ターベン≫
風が奴の体を切り裂く。
「あらら、衣装が少し切れちゃった♪」
全力で放ったのに効いていない!
「キミ、気づいていないようだね。
不完全ながら『コントンのラブパワー』は復活しようとしているんだ。
キミたちの歪んだ愛でね。」
・・・!
「本当に残念だよ。
ランペルやらセキリュウやらクリエイターやらみんなボクの邪魔ばかり。
本当なら今頃ボクが新世界に君臨しているのに。」
氷
≪グラシアス≫
「さあて、今の吹雪で気合もさめたことだし、
そろそろ終わらせてあげるよ。
アデュー。」
道化師が三人に分身した。
それぞれ力を溜めている。
いやな予感しかしない。
何か・・・手は・・・。
せめて、ルイージがいてさえくれれば。
こうなったら!
神速
≪ディクリティス≫
高速詠唱
≪ファスト キャントス≫
魔力
≪ベネフィシア≫
≪ベネフィシア≫
氷柱
≪コルーメン グラシアス≫
火炎
≪フラーマ≫
雷
≪トリトルア≫
疾風
≪ガーレ≫
魔力の限り魔法の詠唱をしたものの
奴の攻撃を止めることはかなわなかった。
≪キラリ流星群≫
≪ミルキー流星群≫
≪デスコメット≫
無数の星型弾が三人の道化師からそれぞれ放たれた。
精神をすり減らして魔法を放ったわたしには
よけるどころか動くことすらできなかった。
ルイージの小説
To Be Continued
ルート2 選択の宝石へ
http://thefool199485.hatenadiary.com/entry/2013/07/12/205118
ルート3 第九章 希望の宝石へ
http://thefool199485.hatenadiary.com/entry/2013/07/13/195727