高二ストレンジR-2
「━━ということで、結構スピネル危ういよ。詳しいことはあの子との約束で話せないけど」
「なるほど。道理で具合が悪いのにマスクをつけてなかったわけだ。サンキュー」
「生物君には何度も助けられたからね。っま、このお礼は命でもって代えさせて頂くから楽しみにね~。バイバーイ」
「冗談きついな!まあ、ミキヨありがとう」
「名前で呼ぶなっていってるでしょ!電話越しに殺すぞ♪」
二週間目 半ば
放課後クラスメイトがしゃべる声や机の音が響き渡る中。僕はサンダーの席に直行したのだった。何度も躊躇はしたが、やはりこの事は聞かなきゃならないようだった。
「サンダー、桜見中学時代のスピネルについて教えてくれ」
山田はついに来たか、といった顔だ。
「わかった。今日一緒に帰ろう」
「家、逆じゃなかったか?」
「大丈夫だ」
アスファルトが黄金色に光を反射していた。住宅地の壁ももれなく太陽色で空は晴れやかな夕日だ。
こつこつとローファの音を響かせながら、僕たちはひたすら歩いていた。
「どこから話せばいいのやら、っていう所だなぁ」
山田はいつになく深刻な顔をしてる。漢字テストで六時まで居残ったときよりも、どっと疲れている感じだった。
「発端は中学二年生にのときだ。今のお前みたいによくスピネルとつるんでた。当時は物静かだった。控え目でおしとやかで、そんなあいつが俺は好きだった」
一息ついて山田はさらっと言った。
「だから、俺があいつに告白するまで時間はそんなにかからなかった」
「!!!」
動揺を隠しきれない僕に対して山田は続ける。自分の汗ばんだ手が気持ち悪い。
「楽しかったさ。はじめての恋愛。勿論長くは続かなかったけとなぁ」
夢を見ているような山田を僕はどうしようもなく見ていた。
「破綻したのは完全に俺のせいだよ。俺はな、スピネルと付き合っている間も自分のことしか考えていなかったんだ。『俺がこんなに楽しいのだから、スピネルも楽しいに違いない』。ずっとそう思い込んでいた」
息を飲む。今の僕は『今のところ』山田の通った道を歩んでいるらしい。恋愛なんて考えてもいないけど。
「ある日が境だった。スピネルが急によそよそしくなったんだ。始めは体調でも悪いんじゃないか、そんなことを自分に言い聞かせていた。
でも、さすがに一週間もそんな態度だったから問い詰めたんだ。
その時のスピネルの瞳が忘れられない。『無』だった。まるで別世界の人をみているようだった。そこでようやく悟ったんだ。自分の過ちに」
思い沈黙のあと、山田は言った。
「俺にはスピネルを呼び戻す資格なんてなかった。スピネルのもう一人の彼氏は僕よりもずっと優秀だった。赤崎以上のカリスマ性と学力を持っていた。それと比べたら僕は、物が燃えた後の炭カスだよ」
暗い暗い瞳だ。自嘲と自虐に満ちた哀しい笑みだ。そのなかで光を求めるようにサンダーは言った。
「幸い、お互いのことを親友と呼べるまでに関係は回復した。大方赤崎のお陰だよ。あいつは奇跡を起こしてくれた。本当によかった」
僕にはスピネルがわからなかった。なぜ、こんなに彼女思いの彼氏を持っていたのにも関わらず、二股をしてしまったのだろう。
まあ、生物学的に理にはかなっていると自分を納得させた。
黒々とした空を見上げて大きくため息をついた。