フゥルの鉛筆画ブログ

鉛筆画のイラストや絵を中心に描いています。黒髪が大好きです。時々短編小説も書きます。

あるドラゴンの冒険 4

 ドラゴンはかつてこの世で最も強かった。繁殖力が低い代わりに硬い鱗と、強靭な巨体、それなりの魔力を与えられた。古代の竜は侵略を繰り返し、人間や魔法生物を追い抜いて生態系を牛耳っていた。


 一瞬何がおきたかわからなかった。まず、腹の辺りに数発の鈍痛、次に背中に激痛が走り、そして息がつまる。十数メートル先でお姉さんが口をあけたまま目を白黒させていた。その隣でさっきと同じように迷彩服の悪魔が立っていた。相変わらず望遠鏡をくるくるまわしている。
 恐らくは魔法で私は吹っ飛ばされたのだ。樹木がクッションになってくれたらしい。
 何とか体を動かしその場から離れる。一歩遅れて樹木がガサッ!と大きく揺れた。
 衝撃波だ。それは音よりも早く、破壊を運んでくる。連射速度は体感にして秒間三発程度。すぐに追撃してこなかったことを見るに射程距離は大体十メートル。
 私が頭をフル回転している間に迷彩服の悪魔はずんずん私のほうへ迫ってくる。歩き方があまりにも洗礼されており、その様子を見るだけで怖くなってくる。
 「魔法は呪文を唱えるのが普通だと思っていたか?私は魔力の大半をこの魔法の最適化に用いている。ほかの魔法が唱えられないという致命的な弱点もあるが・・・・・・」
 ドンッという音がして、いきなり目の前に悪魔が現れた。こいつ、自分に対して衝撃波を放って高速移動を!
 「問題ない!」
 大きな衝撃波が一発。足が地面を失い、空が見えた。一瞬だがお姉さんの嘆きにも似た顔が視界の端に写った。私はその顔を見て覚悟を決めた。
 一瞬で私の全身にうろこが生え、巨大化し、両手が前足になり、頭がトカゲのようなとがった姿に変わり、背中に翼が現れ、尻尾と首が伸びる。この前検診に行ったら身長563cmといわれたのを思い出した。
 「ブラキオレイドスみたい」
 お姉さんの声が聞こえた。
 私は口に炎を蓄えた。衝撃波が何発も体を打つが強靭な肉体は私へのダメージを最小限に抑えた。
 「その程度の衝撃が効くと思っているのか?竜族のうろこは重戦車並だっ!」
 私から放たれた魔法の火柱が悪魔を焼き尽くさんとする。しかし、悪魔に到達する前に透明な壁のようなものにぶつかり、炎は粉々に散ってしまった。無論、魔法の火のため、木には燃え移らない。
 「攻撃はすべて衝撃波が相殺する」
 「だが、翼のないお前は空を飛んでいる敵に攻撃できまい。衝撃波の射程は十メートルほど。それ以上高度を上げれば、その時点で『ツミ』だ」
 私は尻尾を地上の悪魔にたたきつけた。またしても衝撃波によって防がれたが、すかさず私は火炎で追撃する。それさえも防がれてしまったが、焔によって舞い上がった木片が、悪魔のほほに赤い跡をつけた。ここまでしてようやくかすり傷を与えることができたのだ。
 悪魔は何かを悟ったのか森の中へと消えた。逃げたのか?そのための迷彩服か。
 ビュシュゥッ!
 注射をされたときのような痛みが胸部に走った。それは針だった。魔法で抜こうとしたが、続けて二三本と何発もの針が突き刺さった。
 意識が朦朧としてくる。(麻酔針か。なぜこのようなものが)
 手足がしびれ、力が抜けてくる。(銃をどこかで調達したのか?)
 翼がよれて飛べなくなり、地面に落下する。(筒に弾をこめ衝撃波で飛ばせば?)
 崩れ落ちる意識の中、答えにたどり着いた。(そうか、手に持っていた望遠鏡を銃の変わりに!)
 止めといわんばかりに頭にすさまじい打撃が打ち込まれた。空を飛べないはずの迷彩服の悪魔が頭上で笑っていた。
 「ちょっと考えればわかることだ。衝撃波で体を浮かし、肉体から放たれる一撃をそれによってさらに強化できるくらいのことはな」
 種族としての能力に思い上がった私の完全敗北だった。意識が途切れた。