ルイージの小説 36 前編 第七章 宝石がために鐘はなる
≪鉄斬光≫
≪ファイアージャンプパンチ≫
部屋の中央で倒れていた彼の姿が一瞬にして消えた。
そしてあの白いバケモノが奥の窓へと吹っ飛んだ。
「僕は体力には自身があるんでね。」
吹っ飛ばされた布お化けは平然と立ち上がり笑いだした。
「ウシャシャシャシャ!
なかなかやるね。
ちょっと見直しちゃったよ。
じゃあ、こっちも遠慮なく攻撃させてもらうよ。」
わたしは思わず叫んでしまった。
「・・・やめて!
ルイージ、わたしのことはいいから!」
彼は首を横に振った。
「僕を見ていて、スピネル。」
彼は両手を腰まで引いた。
その瞬間氷の柱が彼を閉じ込めた。
氷柱
≪コルーメン グラシアス≫
わたしが使った時よりも巨大な柱だった。
奴が詠唱したのだ。
「ウシャシャシャシャ!!
そういえば君、いい技を持っていたよね。」
≪サンダーハンド≫
奴の電撃を帯びた右手が凍った友人に添えられた。
見て、られない。
でも「見て」と言われた。
≪サンダーハンド≫
≪サンダーハンド≫
三発目の雷の手でとうとう氷柱が崩壊し彼が解放された。
後方に大きく飛ばされる。
「があっ、ああ!」
ふらついているが、それでも彼は
敵に牙をむいた。
前方に跳躍、魔物に向かって手刀を突き出す。
≪地獄付き≫
だが、届く直前に止まった。
疾風
≪ターベン≫
突風に阻まれた彼の右手から血しぶきが飛ぶ。
彼は急いで竜巻から手を引き抜いた。
だが、もうすでに奴の次の攻撃が発動していた。
≪水蒸気爆発≫
彼は舞った。
高く。
本来、水が急激に加熱されたときに生じるその爆発は、
彼の身を確実に削り取っていった。
何回もの爆発音の中に悲鳴が聞こえる。
わたしも悲鳴を上げる。
ひときわ大きい爆発が起こった。
彼がわたしの後ろの壁まで吹っ飛ばされる。
「・・・ルイージ!」
わたしは、無我夢中で駆け寄った。
座り込んだ彼の背後の壁に鮮血がこびりついていた。
「・・・もう、止めて。
わたし、帰るから・・・。
帰るから・・・。」
わたしは彼の目を見てたじろいだ。
獣のように鋭い目つきだった。
「まだだ、僕はまだ戦える。」
「止めて!
もう、わたしのためとか言わないで!」
彼はゆっくり首を振った。
「僕は、君の・・・希望。
あきらめない。
何があっても。
君を侮辱するような奴には絶対に負けない。」
わたしはどうすればこの人をとめられるか考えた。
そして、口にした。
「わたし、帰りたい。
こんな世界居たくない。
嫌。
こんな世界、いや!」
彼は一瞬目を見開いたが、すぐにもとの顔に戻った。
「じゃあ、僕は君のためじゃない。
僕自身のために戦う!
ずっと逃げてきたんだ。
今こそ・・・!」
「逃げていいじゃない!
何で逃げちゃだめなの!」
鐘の音が響いた。
まるでもう勝負はついたと言わんばかりに。
「ぼくの目的は果たせた。
降参しちゃいなよ。
そうすればこの無駄な戦いは終わる。
今、町の変身の魔法も解いた。
暗闇は消え去り月明かりで町は輝いている。
もう、戦う意味なんてない。」
彼はそれでも闘志を燃やしていた。
なんだろう。
彼を支えるものは。
それさえ折れば彼は戦わずにすむ。
なんだろう。
ずっと黙っていたセキリュウが声を発した。
「ルイージ、
お前、
スピネルと一緒にいたいだけだろ。」
彼の顔が一瞬で蒼白になった。
「もういいだろう。
認めろ。
主も、
スピネルも、
ルーニャも、
お前の兄も、
何も言うまい。」
彼はそれでも意地を張った。
鬼気迫る表情で彼は叫んだ。
「僕とスピネルは友達だ!親友だ!」
彼は立ち上がり布お化けをにらみつける。
「うあああああ!!」
もはや、言葉になっていなかった。
奴は舌打ちをしてから魔法の詠唱に移る。
わたしはルイージのことどう思っているの?
何度、自問したかわからないが
結局答えは見えていない。
・・・今も。
彼が傷つき倒れ立ち上がりまた倒れる。
わたしは涙で地面に痕をつくりながら無表情で彼を見続ける。
セキリュウはわたしの意思を尊重して戦闘に参加しなかった。
そしてとうとう、
彼は起き上がることすら出来なくなった。
ルイージの小説
To Be Continued