ルイージの小説 33 第七章 宝石がために鐘はなる
扉を抜けると・・・
それこそ命を奪うような・・・恐ろしいほどの熱気が襲ってきた。
岩盤で出来た円形の舞台に溶岩の客席。
いつか見た光景だった。
忘れもしない。
ドッスンボルケーノの最深部だ。
「ここは!」
彼は驚き両手を広げわたしをかばった。
不意打ちの火炎放射。
「うあああ!!」
ガードも何もせず全身にやけどを負った彼は言葉も無く崩れ落ちた。
「ルイージ!」
金属がこすれる音のような不快な咆哮が耳に響く。
セキリュウが回復魔法を詠唱する。
わたしは目の前の敵にそれとは全く逆の性質を持つ魔法を放った。
氷柱
≪コルーメン グラシアス≫
目の前の獄炎花が炭のように黒く固まった。
治癒
≪サナ≫
「ありがとう、セキリュウ、スピネル。」
非道な攻撃にセキリュウが激昂した。
「不意打ちとは卑怯な!
こちらもそれ相応の手を打たせてもらう。」
タキシードを着た男がわたしとプロミネンスとの間に立った。
一瞬光ったと思ったら男の姿は既に無く、
五メートルもある赤いドラゴンが鎮座していた。
「一撃で終わらせよう。」
後ろから見ていてもわかった。
赤い竜は黒い食人花に食らいつき茎を引き裂いた。
まるでライオンが草食動物の首に襲いかかるように。
けたたましい断末魔を上げプロミネンスは溶岩に沈んでいった。
セキリュウ、何て強さなの。
・・・いや、これは・・・?
「僕たちが戦った個体よりも・・・弱い?」
一瞬でタキシード姿に戻った巨竜は
溶岩の舞台を背にわたしたちにニヤリと笑い、
「竜族を舐めてもらっては困る。
たとえ、相手が弱かったとしても一撃で倒したんだぞ?
なあ、スピネル。」
わたしは一応頷いた。
ため息交じりに。
?!
「・・・セキリュウ!危ない!」
セキリュウの真横に別のプロミネンスが巨体を振り下ろした。
≪アイスフラワー≫
≪ルイージファイナル≫
一瞬の出来事だった。
彼の放った猛吹雪が炎の花を凍らせ、
瞬間的にドラゴンに変身したセキリュウが
豪快に翼で花の茎を掴み取った。
プロミネンスの再生を茎を絞めることで防ぎ、
彼が何度も≪地獄突き≫を繰り出し、息をとめた。
わたしは二人の初めてにしてはあまりにも・・・そう、あまりにも
仕組まれたように精巧なコンビネーションに口を半開きにして、
見とれている事しか出来なかった。
突然、舞台の中央に魔法陣が現れた。
「なるほど、こうして敵を倒していけばいいという訳だな。」
セキリュウの言葉に彼が返す。
「案外、楽に行けそうだね。」
わたしは呆れながら言葉を添えた。
「わたし、もう立っているだけでいい?」
まるで兄弟みたいな二人にわたしは微笑みかけた。
これをゲーム化したら恐らく売れないな。
わたしはそう思った。
≪コルーメン グラシアス≫
わたしの魔法で影の女王の両手が氷漬けになった。
彼が囮になってくれたお陰だ。
「っく、腕がっ!
計ったな!
生意気な小娘め!
わらわの力、見せてやるわ!」
≪チャージ≫
影の女王の体が鈍く光沢を放つ。
「セキリュウ、スピネル、ガードだ!」
守護
≪プロテクション≫
衝撃に備え魔法で盾を貼る。
「わらわの前にひれ伏せ!」
闇よりも濃い圧縮された影が一気に解き放たれた。
≪影の波動≫
わたしと彼の目の前を巨大な翼が覆った。
「私が盾になろう!」
翼の守り
≪スカトゥム アラーエ≫
「・・・大丈夫、セキリュウ」
セキリュウは顔をしかめながらも威勢良く言い放った。
「ぐっ・・・反撃するぞ、ルイージ、スピネル!」
灼熱の炎
≪フラーマ アラデンティス≫
≪衝撃弾≫
稲妻
≪トリトルア≫
「なっ何故!
お前らご時にこの影の女王が!
キャアアアア!」
金切声をあげて巨大な影は跡かたも無く消え去った。
主人公が強すぎるから。
この調子でわたしたちは何体もの強敵を倒していった。
彼が言うには本物はみんな恐ろしいほど強かったとのことだが、
偽物にその力を再現できるほど甘くはなかったらしい。
わたしたちの目の前に現れる敵たちはみんな中途半端だった。
何か理由があるのかもしれない。
彼がマリオの伝記を読んでいたから特徴も弱点もバレバレだった。
多少の手傷は負うものの、敵との戦いよりもむしろ
消耗する魔力の方が心配だった。
精神的にも苦しくなりわたしたち三人の体に数え切れないほど傷が刻まれた。
魔法力を回復にあてる余裕もない。
後数戦したら倒れる、というところでようやく敵のいない場所にたどり着いた。
寺院内部の一室であろう古ぼけたその部屋は、
わたしたちに束の間の休息を与えてくれた。
もはや口を聞くものはいなかった。
それだけ疲弊して疲れ切っていた。
そして、あとどれくらい戦えばいいのだろうという漠然とした不安にかられて
途方に暮れていた。
ただ、ただ、ねむい。
ルイージがその言葉に反応した。
「疲れきっているこの状態で冒険の持続は困難だ。
三人ローテーションで眠ろう。」
彼の案でとりあえずわたしが最初に眠ることになった。
ルイージの小説
To Be Continued