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フールの鉛筆画ブログ

鉛筆画のイラストや絵を中心に描いています。黒髪が大好きです。時々短編小説も書きます。

高二ストレンジR-3

前回↓
thefool199485.hatenadiary.com



 パッつんヘア系男子の化学オタクと、美しい黒髪をもつ少女の姿が脳裏に浮かぶ。
 山田の言葉にはどうにも疑問がのこった。山田は自分がスピネルに相応しくないと僕に印象付けるために、事実を湾曲させて話している可能性がある。
 かといって山田に執着しているのスピネルに聞いたところで、正しい情報を得られるかと言われるとかなり疑問だ。
 そこで僕は
 『もしスピネルと付き合うつもりになったら、オレに相談してくれ』
 と言っていた、山田の親友に声をかけることにした。
 帰りのホームルームが終わった直後、僕は教室を速攻で後にした。



 公園でベンチに座りながら、おいかけっこしている子供たちを見つめていた。夕日が眩しい。学ランが夕日で熱を帯びていた。
 僕と赤崎、二人ともスピネルと山田の恋愛の部外者同士だった。
 「あの頃、オレはまだ今みたいにまともな人間じゃなかった。最初に山田から相談をもらった時も『それでオレに何の得があるんだ?』だったからな。最初は何の興味もなかったんだ。友達の危機にも関わらず、だ。薄情ものだろ?」
 当然、山田からの相談とは『スピネルが二股しているか調べてほしい』というものだ。
 「オレはそいつのこと、つまりスピネルの浮気相手を調べることにした。この事件を解決して担任に好印象を与えれば受験に有利になる。そんな利己的考えで動いたんだ」
 僕は何か違和感を感じた。普通、担任からの信頼を得るためだけにここまで手の込んだことをするのだろうか、と。
 「まず手始めにスピネルの尾行から始めたんだが」
 「は?ビコウ?」
 「スピネルが帰り道山田と別れた後、何処に行っているのか追跡したんだ。家に着いた場合は待機して外出しないか見て……いたんだが、全く行く先がつかめなかった」
 「はぁ?」
 「毎夜どこかに出掛けているところまではつかめたが、それだけなんだ。友達から母親の情報網まで利用したが、二股しているらしいことまではつかめたんだがそれ以上は望めなかった。敵の方が上手だったんだ」
 赤崎から感情がまるで感じられない。淡々と事実を語っていく。ドラマの台本で、台詞を全部抜いたかのような印象だ。そして尻尾を見せない犯人の執念。まるで、別世界の話を聞いているかのようだ。
 僕は呆然として後半友人の言葉が耳に入ってこなかった。

 ふと気づくと話は佳境に入っていた。
 「いくら調べてもそいつは粗を見せなかった。次にオレはスピネルに関して徹底的に調べることにした。すると、体育の着替え中、スピネルの腕に妙なアザがあることに気づいた。数日前まではなかった傷だ。それも跡が残らない程度に痛め付けられていた。化け物じみたスピネルの演技に舌を巻きつつ、オレはすぐさま担任とスピネルの両親にその事を伝えた。もろもろの証拠と一緒にな」
 勿論、脱法ものの証拠を巧く加工した物だかな、と赤崎は『口だけ』笑った。何がおかしいのかよくわからなかった。
 「そのお陰で奴が裏でしていた様々な事実が発覚した。悩みを聞いてほしいという名目で近づき、デートと言う名の軟禁、暴力と慰めの言葉。語り合いと言う名の価値観の押し付け。洗脳のメカニズムに沿った合理的なやり方だよ。この件でスピネルは悪くない。相手が悪すぎた」
 だがそいつの正体までは特定できなかった、と赤崎は言う。
 「自分で調査することに限界を感じた俺はスピネルから彼氏の情報を聞き出そうとした。しかし、あの頃のスピネルは完全に自我自信を喪失し、奴の言葉を鵜呑みにしていた。何かにつけて『あの人は悪くない』『わたしが悪いの』と自分で勝手に納得し、不快なほどもう一人の彼氏を崇拝していたんだ。散々苦労したあげく、数日後に山田の必死の説得で、ようやくそいつの名前を聞き出した。スピネルをタブらかした彼氏を突き詰めたとき、オレの考えはがらりと変わった」
 突然、赤崎の言葉に重みが戻った。声に感情が息吹き、赤崎が生まれ変わったような錯覚を覚えた。
 「そいつは桜見中学生徒会長だった。並外れたコミュニケーション能力と、恐ろしく冷徹な知識、判断力、行動力を持つ真の化け物。オレはこうはなりたくないと『思った』!なぜかは今でもわからないが……」
 赤崎はさっきまでと一転して身ぶり手振り感情を表現した。
 「そのあとオレはスピネルと山田の関係を治すのに全力を尽くした。嫌だったんだ。あいつみたいになるのが。そのためには人を思いやる心を持つ以外方法がなかった。結果論だが、よかったと思うよ。今のオレになれて」
 友人は最後に僕に微笑みかけた。いつもの赤崎の笑顔だ。爽やかで仲間思いな赤崎が帰ってきた。
 「ただ、固執した考えに囚われていたスピネルを救いだし、熱い心を持ってスピネルの心のケアをしたのは俺じゃないんだ。誰だと思う?」
 僕は二週間前に知り合ったばかりの友達の名前を口にした。
 「その通りだ。山田だよ。山田はスピネルをもとに戻すだけでなく、たゆまぬ努力で彼女を支えたんだ。それによって爆発的にスピネルは成長を遂げた。もう一度言っておこう。すべて山田のお陰だ!」
 赤崎の熱い視線が僕を射ぬいた。
 「苦労はしたが、ここまで関係を戻すことが出来た。あともう一息だ。あいつは精神病棟に送られた。スピネルと山田のわだかまりを解決し、もう一度彼らが恋人関係になれれば、ハッピーエンドだ」
 それでも赤崎に感じる妙な違和感が消えることはなかった。
 僕はその違和感に耐えきれず、赤崎から目をそらし広場の方を見た。公園で遊んでいた子供たちはみんな親に連れられ帰ってしまった。


 「【愛は最高の奉仕だ。みじんも、自分の満足に思ってはいけない】、覚えておけよ」


 誰もいない公園で、ポツリと言った赤崎の言葉が哀しく響いた。



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スピネルの元カレ
柏木 栄才(かしわぎ えいさい)
 公立宵が浜中学出身
 赤崎を越える人間掌握能力と、赤崎以下の共感能力をもつ。容姿端麗で成績も常時一位。
 中学時代、クラスで孤立していたスピネルに目をつけ、山田から奪い去った。
 しかし、執拗な赤崎の追跡、山田のスピネルへの想いによって阻まれる。
 彼にとっての誤算は、当時利己主義だった赤崎が興味本意で山田の味方をしてしまったことと、暴走したサンダーの動きを把握できなかったこと。