ルイージの小説 21 後編 第五章 激闘の宝石
プロミネンスも僕の動きをだんだん把握してきたらしく、
動きがどんどん激化していった。
僕は狂った人形のように舞い続け、
スピネルは魔法で奴の火炎を打ち消さんがため、詠唱を続ける。
奴はしぶとい。
僕の全力の一撃が奴にとってはまるでかすり傷。
そんな気がしてきた。
でも、勝たねばならない。
どんなに時間がかかっても。
こんな奴を野放しにしていたらこの先どうなるか見当もつかない。
不意打ちに不意打ちを重ねる奴の攻撃に、
僕の体は徐々に傷ついていく。
これも恐らく奴の作戦だ。
圧倒的な持久力で敵の消耗を待つ。
僕が今、一番懸念していることはスピネルの魔力切れだ。
≪ルイージファイナル≫は溜め時間があるため、
隙を全く与えてくれないプロミネンスには使えない。
≪アイスボール≫は連射もできるが、
せいぜい触手の動きを一瞬止めるのが限界。
≪ネガティブゾーン≫を使ったら、スピネルを巻き込んでしまう。
つまり、スピネルの魔力切れ=敗北となる。
逆に僕がやられてもスピネルには物理攻撃の手段が無いため、
敗北に直結する。
だから、どちらかが力尽きる前に一気に勝負をつけなければならない。
息が上がり呼吸が乱れ、
疲労と傷で体全体が重くなり動きが鈍る。
熱さで頭痛もしてきた。
視界が時々ぼやける。
平衡感覚が徐々に失われる。
口の中にはねばねばした気持ちの悪い唾液と
血の味が広がっている。
スピネルのぜぃ・・・ぜぃ・・・という苦しげな呼吸音が僕の耳に入る。
この熱いなか、めまぐるしく動き回る僕の背中で必死に魔法を唱えているスピネル。
互いに限界が近い。
いや、すでに超えているのかもしれない。
それでも戦い続けられるのは、
僕にはスピネルが、スピネルには僕が、ついているからに違いなかった。
「・・・さすがに・・・奴も・・・、
動きが・・・ぜぃ・・・鈍って・・・ぜぃ・・・きた・・・ね・・・。」
スピネルの声は熱さに喉をやられ、すでに枯れていた。
スピネルの≪グラシアス≫が発動した。
プロミネンスの火炎が消え、「芯」が姿を現す。
僕は暴れる自分の体を理性で無理やり押さえつけ、奴に飛び乗った。
「これでも・・・食らえ・・・。」
≪サンダーハンド≫
雷を纏った手で奴の体を思いっきりぶん殴る。
っと、奴の体が少し傾いた。
僕は危険を察知し何とか奴から飛び降りる。
奴が頭部から順に僕の目の前を通り過ぎていく。
着地をしようとしたら足に力が入らず、そのまま前のめりに倒れてしまった。
「・・・ルイージ!ゴホッ・・・だいじょう・・・ぶ?」
「ああ、大丈夫・・・。」
一度、大きな音が響き渡り、
それを期に、あたりを溶岩のぐつぐつと煮える音があたりを支配した。
奴は、負けた。
僕たちは勝った。
「スピネル・・・、背中から降りてくれないか?」
スピネルは何も言わず背中から降りた。
僕は何とかうつぶせの状態から仰向けにねっころがった。
「倒せた・・・。」
なんともいえない達成感が僕の心の中を支配していた。
急に喉の渇きを思い出し僕は水筒を二つ帽子から取り出し、
片方を左隣にいるスピネルに渡した。
お互い喉を潤す。
「・・・約束、守れる・・・ね。」
スピネルの声は僕にとって大きな癒しだ。
たとえその声が枯れていたとしても。
それに対し、のどを通る熱風は僕たちの疲れた体を気にも留めず、
喉や気管や肺を傷付けていく。
スピネルの魔法の加護がいつの間にか無くなっていた。
恐らく戦闘中に切れて気づけなかったのだろう。
再度かけるだけの魔力はスピネルに残されていない。
ただ、火山ガスを防ぐ結界はまだ失われていなかった。
「とりあえず・・・ゲホッ・・・外に出よう・・・。」
ここで永眠するわけには行かない。
僕は体に鞭打って立ち上がる。
三度ほど失敗したが、立ち上がる力はまだ僕に残されていた。
スピネルはいつの間にか人間の姿になっていた。
恐らく魔力枯渇で浮くことができないのだろう。
カーバンクルの姿ではリスのように手足を使い走ることもできる。
が、全身運動であり相応の体力を使う。
この状況では無理だ。
僕もスピネルを背負う力は無い。
結局二人とも歩いて帰る以外道は無かった。
スピネルから顔を離し、
前を向くとそこにはプロミネンスが転がっていた。
ピクリとも動かない。
僕たちはまるで何も無かったかのように後ろを向いて、
歩き出した。
見たくもない。
僕たちはこの舞台でもう十分すぎるくらい踊った。
もう降りてもいい頃だろう。
だが、ここにきて初めて気づいた。
一番初めの奴の触手の攻撃で、
舞台から降りるための通路がズタズタになっていることに。
普段ならば何の苦も無く飛び越えられる距離だが、今の体では無理だ。
まずいことになった。
どうしよう。
スピネルに助けを求めようとしたが、彼女も顔を青くしていた。
困った。
『スーパージャンプ台』を使えれば一番いいのだが、
あいにく台に勢いよく飛び乗るだけの脚力は残っていない。
急に大きな地震が僕たちを襲う。
僕とスピネルはバランスを崩ししりもちをついた。
なんだ、と、あたりを見回すと地震の原因がはっきりとわかった。
「・・・笑っていい?」
スピネルが半泣きで僕にそういった。
さっき倒したプロミネンスの骸の背後から、
もう一体のプロミネンスが姿を現した。
「・・・笑えないギャグだね。」
もう戦う力は僕たちに残されていない。
退路はふさがれている。
積み・・・だ。
ルイージの小説
To Be Continued