対面する老人と国王
⬆長田さんのキャラよりガーナ王
世界的指名手配を受けている老人。諸事情により乗っていた船が沈没、ドレスタニア王国に漂流したところに運悪くドレスタニアの正規兵に見つかった。
手負いで体力を消耗している状態で、持ち物の殆どは漂流中に失った挙げ句、正規兵数十人を相手に追われる。老人は持ち前の用心深さ、判断力、応用力で何とか逃げ切ろうと試みるも、失敗。
兵に連行された先にはドレスタニアの国王、ガーナ王がいた。
アンダーグランドで生きる老人と国王が向き合った緊張の瞬間!
……というテーマで描きました。その後どうなったかは長田さんの記事を参考に。
召喚都市カルマポリス PFCSss 2
3
木製の長机とイスが規則正しく並んでいる。それらは部屋の前方にあるボードに向けられている。ボードには『休日の特別講義━━カルマポリスのシンボル依存問題』と書かれていた。
教室に生徒はいなかった。どうやら体育館に避難したらしい。
「ここなら廊下の様子も見えるし階段も近い。まあ、それなりに安全だろう。何より君の能力が活かせる。それにしても━━」
年を10才以上若く見られる、タニカワ教授はボードを見てから呟いた。
「━━ルビネル、この町のシンボル依存は深刻だな。他国では電気やガスを使って行うことをシンボルからのエネルギーに一任している」
「ええ、今日の朝のドラマでやっていましたよ。『もしもシンボルがなくなったら』って」
ドラマでは電気とガスが普及し始めたあたりだった。電線とかガス管設置の描写が抜けていて、なんじゃこりや状態だったけど。
私は廊下側の窓をみた。室内の明かりで薄くなっているものの、やはり緑色の光が混じっている。
タニカワ教授はスーツのポケットから手のひらサイズの黒い箱のようなものを取り出した。シンボルエネルギーで動き、通信するラジオだった。
【……は100才くらい、身長170cm前後の老人で、古ぼけたビジネススーツを好んで着ます。見かけたら治安維持班までご一報を。次のニュースです。先月、『何か』召喚回数が3回を越え、死者が2人に上りました。出現頻度及び使う呪詛・魔法の強さが増していることから、警備班は警戒を強めてい━━『何か』出現予定時刻です。外にいる方は直ちに建物内に避難してください。繰り返しま……】
「前は一月に一体召喚されるくらいだったのに」
「そうだな。そういえば君が課題をしている間、私も創世記をあらかた探ってみたんだが」
「あの分厚いのを何冊も!?」
「断片的だが面白い記述を見つけた。リムドメイン計画って言うんだけど、これがパラレルファクターのルーツに……」
私は突然何か嫌な感じがして窓の外を見た。廊下越しだったから分かりにくいけれど、何か変だった。
「どうしたルビネル?何か見えたのか」
遠くに、遠くの空に白い点が見える。白い点はどんどん大きくなり、やがてそれが人の形をしていることがわかる。儀式で使うフードつきのローブのような物に身をまとっている。
でもここは確か学校三階のはず!?
「教授!人が……浮いてる」
「いいや、あれは『何か』だッ!すぐに教室の窓からはなれて、反対側の壁によりなさい!!」
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どんどん『何か』は近づいてきた。フードで顔を隠しているが、その下から少しはみ出ている肌は真っ黒だった。
そして何より、さっきまでなにも握っていなかった右手に、身の丈ほどもある、大きな鎌が現れた。白いフードの『何か』は両手でそれを掴むと大きく振りかぶった。
「大体この教室から約100メートル。少なくとも持っているのは浮遊の魔法と武器召喚の魔法か」
「教授!冷静に分析している暇があったら机の下に隠れてください!」
次の瞬間、地面から体が少し浮き上がった。バリバリバリッ、と大量のガラスが一度に割れる音がした。廊下の窓はもちろん、教室の窓ガラスにもヒビが入った。
天井からホコリが舞った。
そして、もう一度すさまじい衝撃が学校を襲った。
「タニカワ教授!大丈夫ですか?」
「これは、鎌から産まれた爆風か!」
力が入らない。全身の筋肉が痙攣してる。瞼が開いたまま動かないが。
「どうしよう、まさかこの学校のこの階を狙って打ってくるなんてっ!怖い。からだが震えて動けない」
「いいや、違う。あいつの向いている方向から判断すると、狙われたのはひとつ下のフロアだ」
「えっ、じゃあ余波だけでこれだけ!?それに、ひとつ下のフロアって……」
職員室がある。もし、最初の一撃で廊下が破壊され、もう一撃で教員室内にあの衝撃が到達したら!
「……どこで知ったわからないが、敵はこの学校の構造を知っている。しかも、あえて昼休みの時間帯を狙ってきた」
「助けにいかなきゃ!」
「ダメだ!君はここにいて私が……と言いたい所だが、君の方が強かったな。二人で行こう」
「えっ、ええ?!」
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下の階はひどい有り様だった。とても大きな刃で廊下の端から端まで切り裂いたらこうなるのだろうか。廊下と教室の境がなくなり、コンクリートがむき出しになっていた。あちこちであり得ない方向に曲がった骨格が飛び出している。
そして、壁際には机をはじめとする色々なものが山積みになっていた。私はそのなかに人のご遺体があるんじゃ、とすんごくドキドキしながら、さりげなくタニカワ教授の手を握っていたけれど、特になにもなかった。
「はあ、今日が休校日で本当によかった。ここにいた先生方も早々と体育館に逃げていたみたいだ。他の教室も見たところ人影はなかったしな」
「ああ、憎き職員室が……」
「本音が出てるぞ、ルビネル」
「感傷に浸っているんです」
「じゃあ、さりげなく成績表を踏みつけるのやめようよ」
「あっごめんなさい、ついうっかり」
「そう言って校長先生の座席に座るのもやめなさい」
「あっ万年筆発見!しかも二本!」
「教授、悲しくなっちゃうな」
タニカワ教授がうつむくフリをしてしゃがんだ。私は万年筆を掲げ、懸垂のようなポーズをとり、足を縮めつつ天井まで跳ぶ。
タニカワ教授の上、私の下を風の刃が通りすぎた。窓とは反対側の壁がとうとう衝撃に耐えられず穴が開いた。後ろから木材や石の破片が跳ね返ってきたけれど、タニカワ教授の呪詛によって守られた。
「どうやら、振りかぶらなくてもそれなりの衝撃波は放てるようだね。私の守りの呪詛は二人を守るので限界だ。他に人がいなくて本当によかった」
「教授、逃げたいです」
「ああ、ルビネル。早速逃げよう階段も向こうに……」
とタニカワ教授が言った瞬間、階段の方向から爆発音と、何か大切なものが崩れ去る音が聞こえた。
「下り階段が三つとも切り壊されたっ!これでは、逃げられない」
「え、じゃあ、こいつ私たちを殺す気ですか?」
ボールペンで手品芸をする事くらいしか脳がない私にどうしろと。
「いいや、恐らく半分は正解だな。そこで、私にいいアイデアがある」
「え、説明する暇ありますか?」
6
私とタニカワ教授は反対方向にダッシュした。
案の定『何か』はタニカワ教授に向かって突風を放った。教員室のある階を狙ったことから、多分教職の人が奴のターゲットなんだろう、とタニカワ教授は推測していた。
そのタニカワ教授はいい感じに物影から物影、とうしようもないところは守りの呪詛で避けている━━と私は信じてる。
ある程度タニカワ教授と離れたところで、私は『何か』に向かって校長の万年筆を投げた。
奴は白フードを少し揺らし、まるでハエを退けるが如く鎌で万年筆を叩き落とそうとした。
でも、鎌は微妙に万年筆を避けて空を切る!
「やった!守りの呪詛が効いた!」
さっきタニカワ教授が私の守りを解除して万年筆に呪詛をかけていた。確実に不意をつくために、ね。
そのまま化け物の喉に万年筆がつき刺さろうとするっ!……というところで今度は左手にキャッチされてしまった。守りの呪詛は最初の一撃で破られている。この距離ではかけ直すこともできない。
でも、なんの問題もない。
「『ペンは剣より強し』。ちょっと勉強不足じゃなあい?」
万年筆のペン先が『何か』の喉元に突き刺さる。そのまま体内に潜り込んだ。
「タニカワ教授!終わりました!」
化け物が呻き声を上げながら頭を抱えているのをよそに、私は宿題の終わった小学生みたいな声でそう言った。
でも、答えてくれる先生は誰もいなかった。
霧の街カルマポリス PFCSss
信仰都市国家:カルマポリス
その昔強大な力を持つ魔法使いがいました。魔法使いは彼の持つ魔法で人々を支配しようとしました。しかし、勇敢な若者たちが魔法使いに挑み、力を会わせ、魔法使いの魂を封印しました。
魔法使いの力と肉体、そして魂はワースシンボルと呼ばれる巨大な水晶となり、信仰する人々に富と力を与えました。
そしてワースシンボルは『自らを崇めるものは、死んだ後に魂がワースシンボルによって浄化され、再びこの世に転生する』と、言いました。
ワースシンボルに惹かれた人々はその加護を最大限に受けるために村を作りました。
そして村はいつしか町となり、最後には国になりました。
━━カルマポリス初代国王の伝記より━━
0
【『何か』が出現しました。大変危険ですので民間人は建物から出ないでください。もし、『何か』に遭遇した際はすぐに逃げてください】
警報を知らせるアラームがカルマポリス全体に鳴り響いている。私は布団の中でじっと外の音に耳を済ませていた。街が恐ろしいほど静だから、高層ビルのど真ん中の階でも外の声が聞こえてくる。
「おい!いたぞ!『何か』がいたぞ!」
爆発音。
「奴は触れたものを爆破させる呪詛を使ってきます!地面を触れても爆発するようなので、無闇に近づくのは危険です。遠距離からの攻撃が有効でしょう。私が行きます」
「いいねぇ。遠距離から放てる『呪詛』なんて。俺もそういう『呪詛』を持ってうまれたかったなぁ」
猛吹雪が吹く音。その後、再び爆発音。
「爆風で氷柱を吹き飛ばしやがった!んっ!なんだ、この熱を帯びた大気は!?」
「どうやら私の作り出した吹雪で雪だまを作り、それを投げてきたようです。空中で分解された雪の欠片は一つ一つが爆弾と化しました。読みきれなかった私の敗北です。あなたは効果範囲外にいるので早く待避してください」
私は布団から少しだけ這い出て、窓に向けてボールペンを一本、投げた。ボールペンは独りでに窓の鍵を開けて外に出ていった。怖いけど、人が死ぬ音を聞くのはもっと怖い。
「馬鹿な!お前ほどの奴が一瞬で」
「一瞬の判断ミスです。申し訳ありません……。爆発後しばらくのインターバルがあるようです。その隙に怪力の『呪詛』で奴を仕留めて……」
ガッ、という『何か』のうめき声と倒れる音が響いた。
「爆発……しない?」
「助かった……一体だれが?」
1
この街は妙だ。まず最初に昼とか夜とか関係なしに、緑色の怪しい霧が漂っている。しかも、都市全体をドームで覆うかのように。みんなはこの緑の霧が魔法使い様の加護だと言うけれど、私からしたら呪いか何かにしか見えない。実際に外から来た人もそういっていた。
私は高層ビルの窓から外の景色を拝んだ。太陽の下たのに、建物の輪郭が緑色に縁取りされている。窓から漏れる光も緑黄色に着色されていた。
この街のエネルギーの源である『ワースシンボル』(既存のエネルギーに例えるなら電線を繋げなくてもいい電気のようなもの。この霧を作り出している元凶)は狭い地域にしか効果を発揮できない。だから『ワースシンボル』の働く敷地に出来る限り建物を作ろうとした結果、高層建築が立ち並ぶ無機質な街並みになった、と教授がいっていた。
街の中央には時計塔があるけれど、これは今の時間を指し示していない。針が666を指し示すとき街に出てくる『何か』の出現までの猶予を表している。だから長針と短針と秒針が別々の法則で動いていて、普通の時計としては全く役に立たない。
私は窓を閉め、部屋に戻った。橙色の優しい照明にピンク色のベッドの上のぬいぐるみ達が照らされていた。
「やっぱりみんなもカラフルなほうがいいよね」
私はふわふわのベッドに腰かけて、その中でもお気に入りの、お姫さま人形をなでなでする。ほらほら、かわいいかわいい。
「……あれ?やばっ、遅刻!時計塔の時間見てた!」
私は慌てて靴を履くと、窓の縁を蹴って空へと飛び出した。そのまま夜の町をゆっくりと滑空して数分ほどで学校にたどり着いた。
2
10人くらいが一度に通っても大丈夫そうな広い廊下を私たちは歩いていた。一枚一枚が人の体ほどの大きさがある窓から、緑色の光が溢れている。
そんななか、私はいい感じに老けてきた教授と話をしていた。ほっそりとしているのに、大胸筋がしっかりとついているのが服の上からもわかる。
声が色っぽいと女子生徒に高評のタニカワ教授の声が廊下に響く。
「妖怪(供魂者)が生きたまま肉体を消されるか、その魂を自らの意思で差し出すと、その魂が別の他者(受魂者)の魂とリンクする。受魂者は肉体の制限を無視して供魂者の呪詛を行使できる。ただし、魂のリンクは精神に大きな負担を与える。そしてこれらの能力を使える人を『パラレルファクター』と呼ぶ……がこれまでの研究でわかったことだ。それでだ、ルビネル」
ルビネルと呼ばれたときに一瞬のドキッとしたけれど、タニカワ教授にそれは見せなかった。
「はい、タニカワ教授。先日もお話ししたように、これはシンボルと共通しています。シンボルに人の魂が帰り転生する。これはつまりシンボルが受魂者で、死んだ人が供魂者になるのでは?」
「シンボルと魂は一旦リンクし、解除されてこの世に転生する。つまり、ルビネルの言葉に従えばシンボルとは何者かの魂……つまり創世記にある魔法使いの魂そのものであると」
「もし、創世記の通り魔法使いが人にたいして敵だったとしたら……」
「魂の力までは封印されていない可能性がある。それはつまり魔法使いの力は限定的とはいえ健在ということになる。今も我々が魔法使いの手のひらで転がされている可能性は大いにあるな」
タニカワ教授は苦虫を噛んだような嫌な顔をした。が、すぐにいつもの精悍とした表情に戻った。
「それにしても、本当に君のペンを操る呪詛、便利だな」
「へっ?」
タニカワ教授は私の目の前に浮いているものを興味深いといった顔で見つめていた。
ボールペンがメモ帳の左右のページの端をペン先のクリップで挟んで留めてたまま浮遊している。そして、もう一本のボールペンがひとりでに今の会話の要約を超高速で書き留めていた。
「ああ、これですか。まあ、便利ですけど器用貧乏っていうか」
「今日も靴底にボールペンを仕込んで跳んできただろ。空を見上げたとき見えたぞ。校則違反だ」
困った子だ、という顔でタニカワ教授は私の頭を軽く撫でた。くすぐったい。
そのとき警報が鳴り響いた。
【『何か』の出現予想時刻三十分前です。カルマポリス内にいる人は至急建物内に入り、そこから出ないでください。処理班が対処します】
「警報か。一週間ぶりだな。教室にいこう。廊下にいるよりはマシなはずだ」
「でも、この学校は殆ど襲われませんよね。外に処理班がずっといるし」
「そうやって油断して、後悔したことが私には何度もある。早く避難しよう」