フールの鉛筆画ブログ

鉛筆画のイラストや絵を中心に描いています。黒髪が大好きです。時々短編小説も書きます。

小説 滲む赤 試し書き

 

彼は一見、完璧でした。

 

 

 

 

 

 

 

私は竜の国で生まれました。島のほとんどを数千メートルの山々が取り囲み、その山に穴を掘ってドラゴンたちは生活していました。我々竜族は普段は人間の姿で生活し、外に出るときは竜の姿で山々を移動します。

 

しかし、私は竜族であったのにもかかわらず、先天的な障害でドラゴンになれませんでした。そのためにどこかへ出かけるには誰かの背を借りねばならず、不便な幼児時代を過ごしました。私はどうにかして翼に代わる何かを見つけたいと思っていました。

 

そこで目を付けたのが魔法です。魔法は使いこなせば馬のごとく地を駆け、鳥のように空も飛び、魚のごとく海を泳ぐことができます。私は家に閉じこもってひたすら魔法の修練に励みました。そのために幼稚園時代、友達はほとんどできませんでした。

 

小学校では体育の授業は半数が見学。成績には響きませんでしたが、友達の冷ややかな目が私に向けられます。小学生はまだ他人の気持ちを考えるということができない年齢です。私は幾度となく仲間はずれ、もといイジメにあってきました。しかし、魔法学に関してだけいえば全校生徒の中でトップの成績を保っていました。

 

 

 

中学に入り、私は動揺していました。数少ない私の理解者はみんな別の中学に進んでしまい、新しい環境にうまく順応することができず、クラスの端の席で孤立していました。

 

私の教室は二階にありました。そこから校庭を見下ろすのが昼休みの私の日課でした。クラス内はもう、コミュニティーらしきものが乱立していて、もはや私の入る隙間はなくなっていました。そこへ救世主のごとく現れたのが彼です。

 

「一人で何してるんだ?」

 

自分から話しかけるのが苦手だった私にとって、この一言はものすごくありがたいものでした。赤い髪の毛が光を帯びて輝いていました。顔立ちが実に美しく、もし私が女であったなら一目ぼれしていたでしょう。

 

「・・・友達ができない。」

 

「じゃあ、俺がなってやるよ。俺の名前は赤崎滝矢。よろしく。」

 

私達は簡単な自己紹介を済ませた後、しょうもないおしゃべりをしました。最近のゲームがどうのとか、テレビに出ているタレントがどうだとか。他愛もない話でしたけれども、久しぶりに家族以外の人と話したのでとても新鮮でした。赤崎はそのあと、わざわざ学校中私を連れて友達をまわり、みんなに私と仲良くするようにとお願いしてくれました。

 

私は赤崎の優しさに心を打たれました。はじめて話しかけた人にここまでしてくれるのか、と。

 

 

 

赤崎はすでに学校内で人気者になっていました。赤崎と廊下ですれ違うと毎回違う生徒と話をしていました。彼の周りには人が絶えません。男女かかわらず、ほぼすべての人と仲良くなっていました。なぜあんなことができるのか、私含む一般生徒は赤崎が不思議で仕方ありません。

 

あるとき私は彼に質問しました。赤崎はなんでそんなに人を引き付けるのか、と。赤崎は笑って言いました。

 

「この学校のだれよりも人と仲良くしようと努力したからさ。」

 

 

 

初めての体育の時、私はみんなの前で醜態をさらさなくてはならないあの時、赤崎は先生に頼んで時間をもらい、同じクラスの生徒に演説を始めました。私の障害についてです。赤崎が話し終えると、拍手喝さい、授業が中断されるほどの騒ぎになりました。このおかげで私は同じクラスの生徒に完全に認められました。

 

余談ですが、赤崎の体育での演説は教務の方でも絶賛だったらしく、数週間後には全校生徒の前で発表していました。私はかなり気恥しい思いをしたのですが、そのおかげで他のクラスの生徒からも声をかけられるようになりました。

 

私は彼に聞きました。なぜそんなに他人想いなんだ、と。彼は言いました。

 

「嫌われたくないから。」

 

 

 

赤崎に助けられたのは私だけではありません。赤崎はその他人想いを存分に発揮していました。赤崎が人を助ける対価として求めたのは、友達になることただひとつです。

 

赤崎は成績も上々でした。赤崎は人に頼ることも忘れなかったからです。テスト前になると各教科をよく理解している人にポイントを教えてもらったり、いっしょに勉強したりしていました。私もそのうちの一人で、魔法学を赤崎に教えていました。

 

赤崎は何か教えてもらうと代わりに何かをおごってくれました。缶ジュースだったり駄菓子だったりと様々でした。相手を敬う気持ちも忘れません。

 

 

 

唯一赤崎が不得意だったのは体育でした。苦手とは言っても人並みの実力はありましたが。でも、どこか重要な場面でミスをしでかします。しかも、普通ではありえない酷く滑稽なミスです。クラスは赤崎が失敗するたびに盛り上がります。そして、赤崎は笑います。みんなも笑います。後で仲間に自分のミスを詫び、運動部といっしょに練習することも忘れません。

 

 

 

放課後ことです。私は赤崎といっしょに普段と同じように机に座って外の景色を見つめながら語り合っていました。

 

「なあ、お前の種族は何だ。」

 

「俺はドラゴ・マグネだ。」

 

「だからやけにドラゴンの時、背が高いのか。いいよなぁ、二脚翼竜。」

 

種族を語り合うのは決して珍しいことではありません。何せ種族によって寿命から姿の特徴から何から何まで違うのですから。

 

「寿命は?僕は80歳くらいだけど。」

 

「俺は160歳。」

 

「おお、そんなに長いんだ。僕の倍だ。じゃあ僕が死んだら後始末よろしく。」

 

「それぐらい自分でやれよ。葬儀の予約はもう満員だぞ。」

 

「なんだ、先客がいたのか。」

 

だいたいドラゴン全体の平均寿命は100歳前後なのでそれなりに長いと言えます。赤崎は人間の約倍生きるわけですから、老いる速度はだいたい個人差もありますが二分の一ぐらいです。つまり、若い時間がそれだけ多いということになります。二倍の寿命。

 

私はひそかにその寿命の長さにあこがれました。私には後70年しかないけど、赤崎にはまだ130年あるのか。まあ、後になってその考えは変わるのですが。

 

 

 

中学三年の時のこと。私は赤崎といっしょにコイン当てゲームをしていました。しかし、実際はあまりゲームにはなりませんでした。

 

まず初めに赤崎が片方の手にコインを隠します。私は赤崎の右手を指差しました。はたして、コインは中にありました。今度は私がコインを隠します。右手に隠しました。赤崎は私の目を一瞥すると、私の左手に手をかざしました。そして、すかさず私の右手を指差しました。私は手に握ったコインを赤崎に見せます。ほら、またあたりだ。

 

以心伝心しているのか、お互いに百発百中だったのです。私も赤崎も理屈は分かりませんでしたが、なぜかわかってしまうのです。それは普段の生活も同様でした。私達はお互いに自分の心が筒抜けだったのです。このことに関して、私はあまり驚きませんでしたが、赤崎の方はひどく驚いていました。これはいったいどういうことだ、と。

 

 

 

中学二年生の夏のある日、廊下ですれ違った赤崎のポケットから何か落ちました。興味にそそられてそれを見ると、どうやら手帳でした。私は好奇心から手帳の中身を見てしまいました。

 

内容を見たときの私のショックはとてつもないものでした。そこには赤崎という人間がどうやって人望を獲得したのか全て書いてありました。手帳にはありとあらゆる心理学の用語が細かい字でびっしりと詰まっていたのです。少し見るだけで目が痛くなるほどでした。

 

ふと顔をあげると、真っ蒼な顔で赤崎が私を見ていました。私は赤崎に心の底からかつてないほど優しい頬笑みを浮かべながら、赤崎に手帳を手渡しました。赤崎はそれを受け取ると、今日、家まで来てくれないか、と聞いてきました。

 

 

 

赤崎の家は一見普通です。何回も来たことがあったので見慣れた光景ではありました。しかし、今日は遊ぶために来たのではありません。

 

家に入ってごく普通のテーブルに座ると、赤崎は先ほどの手帳ともう一冊、別な手帳を私に見せました。表紙に「ともだち手帳」と書かれていました。私は新たな手帳の中身を拝見しました。

 

やはり、私は驚愕しました。中身は教師を含めた詳細な人間関係そのものでした。彼は見聞きした情報を人の見えない場所でメモをしていたのです。そして、それらをこの手帳にまとめていたのでした。

 

「『ともだち100人できるかな』という曲を聞いたことがあるか?」

 

「ああ、その名前の通りのやつだろ。」

 

彼は長々と話し始めました。

 

「小学校の低学年の時、本当に友達を100人作るにはどうすればいいか真剣に考えた。そして人と仲良くする方法を本で探して、重要そうな単語をこのメモにまとめた。それから高学年になって調べた単語の意味がようやくおぼろげに理解できるようになった。それをひたすら実践して言った。でもうまくいかない。人には立場というものがあって、教科書通りに事が進むことはめったにないと知った。だから中学に入ってともだち手帳を作った。」

 

彼は語り終え、一息つきました。

 

まさか、彼がここまで友達を作るために努力しているとは思いませんでした。赤崎は見聞きした情報を全て記録していたのです。今この瞬間もおそらく赤崎のノートに記録されるのであり、このノートは赤崎の記憶そのものと言っていいのです。赤崎はそうしようと思えば三年前にさかのぼり、その人が何をしていたのか正確に調べることができるのです。私はその異様ともいえる行為を少しばかり不気味に思いました。

 

それにしても、一歩間違えれば友達関係を全て放棄されてもいいような品です。こんな大切な、決して他の友達に吐き出せなかったものを私に対して後悔したのです。私は至極不思議に思いました。なぜこんな危険なものを私に見せてくれたのか。

 

「お前には隠してもいつかはばれる。それに俺と同じくらい口が堅いだろ。」

 

「それだけの理由でこの国家機密並みの情報を漏らすか?」

 

「十分な理由だ。俺にとってはな。絶対に他言してくれるな。約束だぞ。」

 

 

 

この一件のおかげで私は赤崎の一番の親友になりました。みんなには言えないことも赤崎は私に話しました。私も赤崎に秘密をしゃべったりしました。まあ、もともと赤崎はクラスの人からよく相談とかを受けてはいましたが。

 

 

 

それからはあっという間に時間が過ぎて行きました。赤崎が学年にいたことにより、学年全体のモチベーションが上がりイベントも学校の歴史に残るくらい盛大に執り行われました。卒業式では私を含め、大半の生徒、教員が涙を禁じえませんでした。

 

 

 

赤崎は完璧でした。見てくれは。