フールの鉛筆画ブログ

鉛筆画のイラストや絵を中心に描いています。黒髪が大好きです。時々短編小説も書きます。

ルイージの小説 最終話 希望の果て


雨が止んだ。

 

 

 

 

 

両手両足を失い、白い肌を紅が舐めていた。

麗しき黒髪は名残惜しそうに少女の顔を彩る。

焔色の光が全身を照らし、

わずかに残った肌色がおぼろげに輝く。

 

焼け爛れた大樹に不釣り合いな猫は、

四肢をその樹にゆだね赤黒い宝石を見つめる。

 

草に着いた赤い露は朝日を受けて煌めく。

取り囲む樹林はもえるようにざわめく。

 

全てが暁に溶けてゆく。

 

 

 

ああしまった。

 

もうどうにもならないという黒い影が僕の背後に伸びていた。

 

僕は何も考えず、この光景を目に焼き付けた。

 

 

きれいだった。

 

 

ただただ、きれいだった。

 

 

 

 

その僕の頭の中ではある言葉がひたすら反復していた。

衰えもせず、美化もされず、頭に響く。

いたいけな少女の最後の言葉。

 

 

 

 

 

うそつき。

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

あの事件の後、

ピーチ姫の『キノコ王国をよみがえらせる力』によって全てが元に戻った。

キノコタウンは活気を取り戻し、傷ついた人はみな癒された。

何事も起こらなかったかのように全て復元された。

 

君たちを除いて。

 

キノコ王国出身でない君とルーニャはピーチ姫の力が及ばなかった。

 

 

君が精神世界で死んでしまったとき、

魔女は君から幽体離脱するかのごとく生まれた。

 

ディメーンでも君でもないそれは、

仲間を次々と打ち倒しながら各地を蹂躙していった。

老若男女、誰かまわず破壊していった。

 

ルーニャは守るべきモノが次々と斃れてゆく様子に耐えられなかった。

希望を求め、震えながら僕に寄り添ったとき、彼女は殺された。

 

 

二人の悲しき運命に王国中が涙した。

 

 

 

僕はそれから人のために全てを尽くした。

守れなかった人に対する些細な償いとして。

 

僕は分かっていた。

 

 

全て。

 

 

でも、言えなかった。

みんなにそれを言うということは、

みんなが人殺しに関与したということを言うのと全く同じだったからだ。

もし真実を語ったなら、

優しいみんなは泣いて僕のことを許してくれるだろう。

でも、純粋なみんなの心に一点の曇りを吹き付けることを僕は酷く嫌悪した。

 

 

あるときピーチ姫が言った。

「あなたは悪くない。全て、私のせいよ。」

「いいや。僕のせいだ。

僕は約束を破った。」

ルイージ、あなたは最後まで使命を全うしていた。

最後までスピネルを、ルーニャを、仲間を守ろうとした。

客観的にみてそれは事実よ。

だから・・・」

 

ピーチ姫は気付いていない。

その客観こそが全ての過ちだということに。

僕の主観でしか、真実は見えない。

 

セキリュウも、ランペルも、ルビーも、クッパも、

猫の手の仲間も、星の精たちも、

ついにはクリエイターまで

同じようなことを僕に言ってきた。

 

僕はそのたびに強い孤独を感じた。

この世で一番信用していた人ですら、僕のことを理解してくれないのだ。

 

 

 

誰一人、僕をわかってくれない。

誰一人、君をわかってくれない。

 

僕の叫びはむなしく空にこだまするだけ。

 

 

 

ふと、君が日記を書いていたことを思い出した。

 

 

 

本棚に置かれていた日記を取り出す。

いつものテーブルのいつもの位置に座った。

電気を消してカンテラに火を付ける。

寂しい光の中、僕は君の日記を開いた。

 

 

最初のページ。

 

 

『今日はルイージの手を握ってみた。

驚く様子がかわいい。』

 

ルイージが私の悩みを聞いてくれた。

ありがとう。少し、楽になったよ。』

 

君と僕の思い出が詳細に記入されていた。

ルーニャのことも書かれていた。

何ページにもわたって書かれている日もある。

 

思い出が現れては消えを繰り返した。

 

 

キノピロと遊んだとき。

 

プロミネンスを倒したとき。

 

キノコ城に遊びに行ったとき。

 

みんながお化けになったとき。

 

オドロン寺院での出来事。

 

 

 

読んでいるうちに次々と頬に涙が伝っていった。

 

 

 

もう戻れない。

 

 

 

 

君は僕が殺した。

これは事実だ。

 

 

 

 

 

でも、実は別の力によって追いつめられていのではないか。

 

 

君は魔女になったとき、

みんなから敵視され何も聞いてもらえず強い絶望を味わったはず。

それでも、君は希望を失わなかった。

僕が希望そのものだから。

 

僕が君にとって最後の「居場所」だった。

 

でも、僕と一緒にルーニャがいた。

君がいつもいた場所にルーニャが立っていた。

それによって、君は希望そのものに裏切られたのだ。

誰にも必要とされない孤独。

 

 

 

君たちは孤独に追い詰められ、殺されたのではないのか?

 

 

 

ルーニャは仲間を失う恐怖から僕に身を寄せた。

それが彼女にとってどんなに危険なことかわかっていながら。

宝石を裏切ることと知りながら。

 

そのために、君に殺された。

 

でも、それも違う。

仲間を失う恐怖の先にあるものは、やはり、孤独。

孤独から逃げようと僕に近づいたばかりに結果的に殺されたのだ。

 

 

 

その事実にたどりついたとき僕は固まってしまった。

 

二人が孤独に殺されたのなら

今の自分も二人と同じレールの上に立っていると感じたから。

 

僕のこの先にあるものを二人は暗示していた。

 

 

つまり、このままだと僕も同じように孤独に殺されるのだ。

 

 

僕はおそれおののいた。

この真実に。

 

 

僕は日記を置いて、みんなに全てを打ち明けようとした。

何度もそうしようとした。

でも、そのたび内側からくる不気味な力によって抑え込まれた。

不気味な力は僕にただひたすら前に進めと言ってくる。

 

『・・・わたしが死んでも前を向いていられる?』

 

僕の進む道の先には終わりが待っている。

引き返せばみんなを、途方もない数の人々を傷つけることになる。

道をそれることも引き返すこともできない。

 

 

 

 

 

 

僕は・・・

 

 

 

どうすれば・・・

 

 

 

 

 

とうとう日記の終わりが見えてきた。

今開いているページの日付はあの日の一日前だった。

つまり、次のページはあの日について書かれている。

 

 

ページの端に触れた瞬間、突然涙が止まった。

何か最後のページだけこれまでのものと違うものを感じた。

 

手ががくがくふるえている。

いやな汗が噴き出してきた。

寒気がする。

 

 

何か絶対に見てはいけないモノを見ようとしているような

そんな感覚に陥った。

 

僕は無理にその恐怖を抑え込み、

アリが這うように、ゆっくりとページをめくった。

 

白い大きなページに小さく書かれていたのは、たった一言だった。

 

 

 

 

 

 

待ってる

 

 

 

 

 

 

ああ、そうか。

 

君は僕を求めているんだ。

今も、これからも、ずっと。

 

 

 

 

 

 

 

赤黒い字で書かれたそれは

 

君からの最後のプレゼントだった。