フゥルの鉛筆画ブログ

鉛筆画のイラストや絵を中心に描いています。黒髪が大好きです。時々短編小説も書きます。

信仰の都市 カルマポリス PFCSss4

 道路両脇の街頭ですら緑色に発光する。私は車道の両端に作られている歩道を歩いていた。途中で走り回っている子供とぶつかりそうになり、靴底に仕込んだボールペンを操り、足を動かさない反復横跳びのような感じで避けた。
 道行く人はセール品かなんかの大きな袋を持っていたり、死んだような顔をして黒い鞄を揺らしている人もいた。
 服装は皆バラバラで、民族衣装に身を包む人もいれば、ライスランドから輸入した軽装、ドレスタニア産の正当派ブランドなど様々だ。
 工業で莫大な利益を産んだカルマポリスだが、それはワースシンボルのエネルギーに依存している。経済から何から何まで全てワースシンボルが中心にある。いわばワースシンボルはこの国の神だ。


 そして、私たちはそのエネルギーの源に会いに行く。
 町の時計搭にあるエレベーターで降りること数十メートル。そこに巨大な地下空間がある。
 ただ、思いの外エレベーターに乗っている時間が長い。

 「ルビネル、その鞄はなんだ?」
 「ああ、これは化粧用具とかその他もろもろです……」
 「君の通っている道場仲間から聞いたぞ。時々すっぴんで稽古にいくらしいな」
 「ナチュラルメイクです」
 「それ違うから!自然な感じでまるで化粧していないように見えるメイクのことであってな……。まあ、君は化粧しなくても十分いいけれどもさ。今日もちゃんとしてきてるみたいだし」
 「ありがとうございます。タクシーの中で改造したボールペンを化粧用具に巻き付けて化粧したので、少し不安でしたが」
 「呪詛の使い方をまちがってないか?」
 「タクシーの運転士に『そんなにあわてて、急なお出かけかい?』って聞かれたので、『神様に会いに行きます』って言ったら呆然としていました」
 「だろうな」
 「王様からの手紙を見せて成り行きを話したら、タクシーの運転士の顔が凄いことになりましたよ。もうこの世の終わりじゃないか、ってくらい。」
 「……言いたいことは山ほどあるが、とりあえず、信仰の対象に会うときくらい寝坊はやめとけ」
 「寝坊じゃないです。普段通りの時間にはおきていたんです。ただ、メイクに時間がかかって……」
 「タクシー乗る前からお化粧してたの!?」
 「あ、着きましたよ、教授」
 「はぁ……」

 私はエレベーターから一歩を踏み出す。床と天井は謎の配線に埋め尽くされており、全てこの空間の中心部に延びている。中心部には人一人が丁度入れそうな位の大きさの水晶が浮遊していた。何本もの配管がそこに繋がれており、ワースシンボルをくびれとした、グロテスクな砂時計の形をしている。

 〔我はアークシンボル。カルマポリスの人々に悠久の繁栄を授けるものなり〕
 脳みそのなかに直接声が響いてくる。平然とテレパシーを使ってきた。タニカワ教授は臆せずワースシンボルに言葉を投げ掛ける。

 「まず最初に、私たちが『何か』と読んでいる怪物はあなたが作り出したものなのですか??」
 〔いかにも〕
 え、そんなあっさり?
 「なぜそんなに重大なことを我々に教えなかったのですか?」
 〔今目の前にいる二人を除いて疑問を持つものがいなかったからだ〕
 この国、大丈夫かなぁ?
 「では、なぜ『何か』を産み出すのですか?人を殺してまで果たすべき目的があるのでしょうか?」
 〔侵略から守るためだ〕
 「外からの?」
 〔いいや、カルマポリスの住民の侵略から諸外国を守るためだ〕

 うーん、タニカワ教授に任せきりは申し訳ないなぁ。かといってワースシンボルが言っている言葉の真意もわからない。こういうときは素直に自分の思ったことを言った方がいい、と教わったような気がする。

 「とりあえず、よく言っている意味がわからないので、最初から説明して頂けますか?」

 ワースシンボルを取り巻くように4つの魔方陣が描かれた。そのすぐ上に黒い三角錐が出現する。先端が明らかに私たちを狙っている。

 「ルビネル、『面接』と『神様との会話』は違うから!ごっちゃにしないで!一応これでも国の命運かかってるんだから」
 「教授、いつのまにそんな壮大な話になったんですか?!」

 私たちは身の危険を感じとり、身構えた。
 合計四つの三角錐の先端に、緑色の光が集まっていく。一瞬光が圧縮され小さな球になった。次の瞬間、私たちに向かって光の線が放たれた。
 とっさに靴底のボールペンを使って跳躍した。振り替えって見ると、今まさに私がいた場所の床の配線が、きれいに切られていた。
 着地して一息つく間もなく、第二撃が発射された。今度は床下の配管をボールペンで持ち上げて盾にした。けれど、ほんの二、三秒で焼き切れた。


 〔遥か昔、私は無機原虫━━仮にαと呼ぼう━━に寄生され、遺伝子変異を起こした。その影響で私は癌制御遺伝子を獲得した。不死の細胞である癌を制御することで実質不死身となった。しかしその代償としてどんなに体が崩壊しようと、癌細胞によって生命を維持され死ねなくなった〕


 偶然視界の隅にタニカワ教授が映った。加護で作ったバリアを踏み台にしてレーザーをかわしている。
 私はその隙にワースシンボルに近づこうとしたけれど、二本のレーザーによって阻まれた。さらに背後から三本目の光線が放たれる。
 

 〔不死によって得た長い年月により、感覚が研ぎ澄まされていき、とうとう魂を感じとる感覚、俗に言う第六感を手に入れた。さらに、魂を認識出来たことで魂を支配する術も得た。妖怪として境地に達した私は、自らを到達術師―リムドメイジと名乗った〕


 敵に全く隙がない。どんなにワースシンボルに近づこうとしても、4本のレーザーが的確に道を塞いでくる。砲台となっている黒い三角錐を狙おうにも、常に動き回っている上に、地下空間の上部を浮遊しているから、普通に破壊するのは無理。
 そもそも攻撃をかわすので精一杯だ。


 〔まだ精神的に未熟だった私は、この素晴らしい能力を広めようと、原虫αの一部(魂操作の遺伝子ドメイン)を一部の若者に与えた。
 分け与えたα遺伝子は不完全であり、二人以上の魂をリンクさせることで、はじめて肉体の制限を越え圧倒的な力を発揮できる。これがこの国に伝わるパラレルファクターの原点だ〕

 ワースシンボルは激しい攻撃とは裏腹に、穏やかな口調のテレパシーで、淡々と話を進める。

 〔だが、力を得てしまったがために生まれた選民思想と、欲にかられた人々はα遺伝子による圧倒的な武力で世界侵略を行う計画『リムドメイン』を発令した。
 私は人々の繁栄と幸福のために力を与えたつもりだった。パラレルファクターは侵略に使う兵器ではない!私は人々に抗議したが、αに感染し強大な力を持った若者たちによって、逆に魂を引き裂かれ、封印された。
 私は永遠に近い命を持っていたため、魂の力もまた無尽蔵であった。そこで、私はエネルギーを供給し快適な空間を作り続けることでその地に人を集め、定住させた。
 最後に、私は集めた人々から他国に侵略をする余裕を奪うため、君たちの言う『何か』を定期的に召喚することにしたのだ〕