フゥルの鉛筆画ブログ

鉛筆画のイラストや絵を中心に描いています。黒髪が大好きです。時々短編小説も書きます。

噂のゲテモノ自販機 短編

高二ストレンジ
四週間目 中場 放課後
 
 自販機に『製品の味は保証しません』と書いてあるのもどうかと思う。他にこんな自販機は見たことがない。
 この自販機は公立桜見中学の生徒からは『ゲテモノ自販機』と呼ばれている。ゲテモノの文字通り、品質保証はされているものの一般には出回ることのなかった、非常に怪しい飲み物ばかりが売られているのだ。
 僕は自販機にコインを入れる。二百円はやっぱり高いけど仕方ない。
 僕は少し緊張しながら、飲みたい物を決めて、ボタンを押した。初挑戦の飲み物だ。まあ、この自販機に売られているのは普通見られないものばかりではあるけど。
 ガゴン、という音がした。僕は自動販売機の取り出し口に手をいれる。中でひんやりとした金属に指が触れた。僕は円柱状のそれを掴むと、手を引き抜いた。
 僕の手には『イチゴ果肉入りショートケーキ風ドリンク』が握られていた。かなりのゲテモノっぷりだが、飲んでみないことにはわからない。
 カチッとフタをあける。飲み口の奥で白色の液体が揺らめいていた。味はどうなのだろう。期待と不安で心臓が鼓動を早めた。
 意を決して一口飲んでみる。存在しないはずとショートケーキの味が口のなかに広がった。まざまざと脳裏にイチゴのショートケーキが浮かんだ。
 「すげぇ。どうなってんだこれ」
 あれ?でもイチゴの味があまりしない。僕は缶壁の説明文を読む。

 『よく振ってお飲みください』

 なんということだ!イチゴの果肉は恐らく底の方に眠っている。最悪だ。異様に損した気分に陥る。まずい、蓋を開けた場合、撹拌(混ぜる)時の効率が極端に下がる。左右に降ったところで内部に渦が巻き起こり、質量の大きい物体はどのみち沈殿する。
 何かいい手はあったか?
 はっとして、僕は飲み口のすぐしたのあたりをへこませた。こうすることで缶の中に対流が起きて、内容物が宙に舞うとか、サンダーが言っていた。
 

 「ねぇ、今日は自販機どう?在庫ある?」
 「ひゃあ!?」
 暁に照らされた黒髪が目に飛び込んできた。僕よりも頭ひとつ背が低い、彼女はもちろん
 「あっ……スピネルか」
 「その顔やめて!笑い止まんない!アハッ……アハハ!」
 何がそんなに楽しいんだろう。僕のリアクションがそんなにすごかったのか?
 「そんなに僕の顔が面白いのか?」
 「口のまわりが牛乳のんだときみたいになってる」
 あ……。
 スピネルは僕のことを笑うだけ笑った後、僕が手に持っている缶を見て叫んだ。
 「あ!それわたしがの見たかったやつ!」
 僕はさりげなく学ランのポケットから、もう一缶取り出した。もちろん『イチゴ果肉入りショートケーキ風ドリンク』だ。
 「あげるよ。スピネル」
 「いいの!?本当に!」
 「色々と迷惑かけちゃったしな」
 「じゃあ、お言葉に甘えて頂きます!」
 スピネルは両手に缶を持って、仰け反るように飲み出した。
 「ちょ!スピネル!口から漏れてる!」
 「!?」
 スピネルの口元から首にかけて白い筋が通っている。
 慌ててスピネルは飲むのを止めたけれど、制服の襟元がかなり白くなっていた。
 「ブレザーがっ!あなた!拭くもの!」
 僕はすぐさまポケットからティッシュを取り出し、スピネルのブレザーの襟をふきはじめた。一方スピネルは手がかなりべたついているらしく、指を一生懸命なめ回している。
 「スピネル、まずい!ベトベトしてとれねぇ!それどころか制服にティッシュがくっついて、余計に事態が悪化してる!どんだけ砂糖を使っているんだ、この飲み物は!」
 なるほど、市場に出回らなかった理由はこれか!
 「口のなかが変な感じ。味自体はいいんだけど……うえぇ」
 スピネルは白く染まったベロを出して、僕に不快な感じをアピールした。
 「どうしよう。これじゃお嫁に行けない……」
 「変な誤解を生むからやめてくれ!」
 「誤解ってナニが?」
 まあいいや、とスピネルはベロを引っ込めた。一方僕はスピネルのブレザーについてしまったティッシュを頑張ってはがす作業をはじめた。
 「れろっ、れろっ、ちゅっ……ふー。これで指についたのはあらかた嘗めとったかな?あ、生物君の首もとにもついてない?白くなってるような」
 「え、そうか!?」

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