フールの鉛筆画ブログ

鉛筆画のイラストや絵を中心に描いています。黒髪が大好きです。時々短編小説も書きます。

少女人形館 ショートショート

 山奥にある館。
薄暗い廊下と各部屋には高級なカーペットが敷かれており、至るところに少女の人形が展示されている。
 人形のどれもが極上のものであり、生娘の息づかいが聞こえてきそうなほどであった。
 そこを訪れたのは黒髪の少女。桜の花飾りと桜柄のワンピースで着飾った彼女は、この館の人形たちと負けず劣らずの美少女であった。
 「素晴らしいコレクションね」
 感嘆の声に、彼女のとなりで執事風の老人が誇らしげにうなずく。
 「そうでしょう、そうでしょうとも。人形は全て一級品を取り揃えております。世界を回ってもこれに匹敵する人形館は存在しないでしょう」
 老執事風の男が館を案内し、まるで生きているような少女の人形について解説する。
 「彼女をご覧ください。アメリカ産160センチ。鼻が高く整った顔を金のブロンドが彩ります。ポイントは艶かしき肢体と豊満なボディ。特に胸から腰にかけてのラインが魅力的です。元グラビアアイドルでごさいます」
 「お次はイギリス産152センチ。鮮やかな茶髪にあどけなさが残る天使の笑み。数々の美女コンテストで優勝しております。汚れを知らぬ清らかな微笑は多くの人々に眠る母性を目覚めさせてきたことでしょう」
 老人は次から次へと少女人形を解説しつつ洋館を案内する。ひとしきり館を回ったあと、老人は最後に地下室へ案内した。殺風景な部屋の中央に薔薇の棺桶が置かれている。老人は棺の前に立つといとおしそうに撫でた。
 「この棺を使えば永遠の美を得ることが出来るのです。あなた様もそのつもりで来たのでしょう?『散る桜 残る桜も 散る桜』。美しく咲いている桜でもいつか必ず散るものであります。ですが、この棺に入ればその美は永遠のものとなるのです」
 少女は淑やかな微笑みを浮かべて質問する。
 「痛くないの」
 「痛みはありません。それどころか一種の快感を伴うとされております。また、入る前にはこちらの強力な睡眠薬を服用して頂くため恐怖を感じることもありません」
 「しっかりと保管しているんでしょうね」
 「見ての通り数百年に渡って最良の保存状態を保ち続けています。さらに日に三度の手入れと厳重な警備によって、盗難はおろか、ささやかな損傷すら起きたことはありません」
 「本当に?」
 「それはこの館に安置されている少女人形たちを見ていただければ一目瞭然でしょう。下劣な男どもによって消費されることなく純然たる美の体現者となった彼女たちを」
 「わかった」
 そう言って少女は棺に手をかけた。
 「そうでしょう、そうでしょうとも」
 老人が至福の笑みを浮かべながら棺を開いた。その瞬間、少女は男を押し込めた。しばらくの間棺の中から叫び声と叩く音が聞こえていたが、やがて小さな断末魔をあげて沈黙した。
 ゆっくりと薔薇の棺が開くと、中で少女のように無垢な表情をした老人が眠っていた。
 「『散ればこそ いとど桜はめでたけれ』桜は散るからこそ美しいのよ。儚さに趣がある。永遠に咲く桜なんかヘドが出るわ」
 少女は艶やかに髪をなびかせながら、人形となった老人を棺にぶち当てた。人形から吹き出した鮮血と共に、薔薇の花弁が無惨に舞い散る。彼女は棺の原型がなくなるまで何度も何度も人形で叩きのめした。
 棺が壊れたためか館の人形たちが砂塵となって消えていく。その中を悠々と桜の少女は帰っていくのであった。