フールの鉛筆画ブログ

鉛筆画のイラストや絵を中心に描いています。黒髪が大好きです。時々短編小説も書きます。

少女ツキと黄昏の森

 少女ツキの下半身は彼岸花で出来ていた。彼女の種族は成人するまで生まれた場所で過ごす。黄色とオレンジの花畑が彼女の住む世界であり、鳥や獣が彼女の友達だった。
 花畑のある森は黄昏に守られており、悪しき魂持つ者は入るのは愚か見ることすら出来ない。そんな森に一人の男が迷い混んだ。



 動物たちが奇妙なことを話したのがきっかけだった。「人が餌をわけてくれた」とか「やさしく撫でてくれた」とか、鳥や動物たちが次々とそういう文言を口にした。でも、この森に人が入るはずがない。ツキは動揺を隠しきれなかった。人とは獰猛で黄昏の森で住むために必要な良心が欠けていると教えられていたから
 彼は厳粛な表情でゆっくりと花畑に足を踏み入れた。

 「こな......いで。近寄ら......ないで!携えた刃でわたしを採取するつもりでしょう」

 花畑に張り巡らした自分の根に力を入れる。いつでもこの侵入者を肉片に変えられるように。

 「まて、誤解だ! これ以上は近づかない」

 男は武器を地面に置いた。身につけた鎧も全て地面捨てた。ツキはすかさず根でその全てを回収した。

 「森の出口を教えてくれ。もう二度とここへは来ないから。この場所についても君についても誰にも話はしない」

 「......その場からあの一際高い木の方向へ向かって」

 男が森に消える寸前に、ツキはある衝動にかられた。この人はこの森の外を知っている。喉から手が出るくらい憧れた『世界』というものを見てきたのだ。今聞かなければ二度とチャンスはないかもしれない。でも人は醜く凶暴で......

 「待って!あの......、出口を教えたかわりに外の世界について教えて」

 青年はハッとした顔でツキを見つめ、ポツリポツリと話始めた。町や山、海、砂漠......青年の話をツキは興奮しながら聞き入った。警戒するのも忘れて、彼の話に思いを馳せた。


 「こんなもんかな。こんなに真剣に人が話を聞いてくれたのは初めてだ」

 「とても、楽しかった。ありがとう。また、話にきてね」


 青年はツキから目を逸らした。


 「どうしたの?」

 「いや、笑顔がきれいだなって」

 「......え?」


 そう言って耳を真っ赤にして青年は駆け出し、黄昏の森の中へ消えていった。
 ツキは外の世界がどんなに素晴らしいかを知り、いつかこの森を出てみたいと思った。


 「あ、荷物......返し忘れちゃった。今度来たら返さなきゃ」


 その中に銀色の装飾品があった。恐らく、首にかけるためのものだろう。身分を示すものらしく名前と生年月日が刻まれていた。


 「いい名前......」


 だが、ツキは知らなかった。それが認識票だったということを。