フールの鉛筆画ブログ

鉛筆画のイラストや絵を中心に描いています。黒髪が大好きです。時々短編小説も書きます。

妄想幻想クリエイター 中 短編小説

thefool199485.hatenadiary.com
⬆前回です。


 3


 私は適当なカフェに入りブレンドコーヒーだけ頼んで席についた。家には執筆の邪魔になるものが沢山ある。ゲームに漫画、テレビに布団......それらの誘惑を絶ちきるためにカフェはよく利用していた。気分転換にもなるし。
 コーヒーをすすって一息つく。カフェの時計を見て、少なくとも私が三十分くらいの間、猫娘から逃げるために繁華街をうろうろしていたことがわかった。さっきよりはマシだが、まだ気持ちに整理がつかない。思考は空転を繰り返し、まともな考えが思い浮かばない。
 彼女は私の小説の主人公そのものだった。名前はオパニャ。
 とうとう、私の頭は現実と妄想の区別もつかなくなってきたらしい。頭がどうかしそうだ。

 「治らなかったらカウンセリングでも受けるか......」

 私はスマホで自分のブロガー名と『オパニャ』を検索するした。すると、私がスキャナを通してネットに投稿した画像が出てきた。私の以前読んでいた漫画に出てくる猫と、とあるアニメの美少女キャラの顔に似ている。童顔で目が大きくて、決して不細工ではない。よく見るとほっぺたから左右三本ずつ髭が描かれている。仕事では白いコートを愛用。
 まあ、なんにせよあれは紛れもなく彼女、オパニャだ。あれは彼女以外あり得ない。ブログを探したところキャラクターシートが見つかった。使いもしない設定を書きなぐった自己満足の産物だが、今小の瞬間だけは役に立ちそうな気がした......そんな馬鹿なと自分で否定する。

 『格闘術を習得している。また、魔力を弾としてこめる特殊な銃、魔弾銃を愛用している。魔弾銃は三発しか弾を込められないが、所有者の魔力を吸収・圧縮し1分で弾が再生する。その威力はモンスターを一撃で容易く......』

 長い長い! その上痛々しい! そんなの書いてる暇があるんだったら本編を書けよ過去の私!!
 そして今の私に必要なのは幻覚をどうにかすることであって、恥ずかしい記憶を引っ張り出すことではない。
 私はざっと見直すとコーヒーを飲み干した。スマホSNSでこの異様な状況を発信してみるが、もちろん反応はない。



 4



 駅から家への夜道を歩く。真夜中の並木道はなんというか不気味な感じがする。木が揺れ動く様が怪物のように見えたり、ガサガサという音が異形の存在が忍び寄る足音のようにも聞こえる。街灯の明かりがひどく心もとない。

 「落ち着け......落ち着け......小説のことを考えるんだ。剣士アトはえっと......」

 アトは幼い頃盗賊に両親を殺されてしまった。身寄りのなくなった彼は、変わり者の元軍人アルフの元に弟子入りする。アルフは不可解な言動を繰り返すが、知略と剣の指導に関しては超一流だった。アトはアルフの奇人っぷりに苦労しつつも着実に実力を伸ばす。そして二十歳になる頃、アトをアルフは認め愛剣クロスカリバーを渡した。アトは単身で盗賊組織に乗り込み復讐する......までがストーリーの前半。
 盗賊団のボスとアトが戦っている場面、それが今かいている文章だ。映画で超能力を手にした主人公が初めて力を使うとき、初めて修行の成果を発揮するとき、初めてガールフレンドといい雰囲気になるとき......に相当する場面。前半のターニングポイントであり、読者のカタルシスを満たすための重要なシーンだ。
 だが、そのネタが全く思い浮かばない。考えても考えても出るのはため息ばかり。書いては消すの繰り返しで進まない。そして、何かヒントはないかとそれまでの文を読み返すのだが、これが全く面白くないのだ。クソッ! なんでこんな作品しか書けないんだ! 最悪な気分だ!

 「あんな作品書かなきゃよかった!」

 不意の激痛がすべてを打ち砕いた。
 空と地面が交互に見えたかと思うと、背中に強い衝撃が走った。夜空が見える。

 「ゴハッ」

 倒れた!? 仰向け? 苦しい! 空気を求めて思わず夜空に向かって手を伸ばした。が、何者かが私に馬乗りになり、両腕を押さえつけられる。
 私の上にのった『それ』は真っ黒い人型の何かだった。人間の頭部に当たる部分に真っ赤な口だけが見える。その口が私の肩口へと迫っていた。私は体を動かして必死に抵抗するが、相手の力が強すぎてまったく無意味だ。
 こんな意味不明な人生の終わり方をするのか!? いや、でもそれもいいかもしれない。ここで人生が終わるならこれ以上苦労しなくてもいいし、就活しなくてもいい。夢も希望もなにもない無意味な人生をここで終わらせるのも悪くないんじゃないか。この先頑張っても......

 「ガァァァ!!」

 右肩の痛みで意識が飛びそうになった。こいつ、安らかに死なせる気ゼロかよ! 痛い、痛い痛いぃぃぃ! 奴の歯が肩にどんどん食い込んでいるのか!? これを私が死ぬまで続けるのか!?

 「誰か......ムグッ!」

 ちくしょう! 口を塞がれた。嫌だ、死ぬとか生きるとか以前にこんな苦痛......耐えられるわけがない!
 一旦奴が首を引いた。唇に赤い液体が滴っている......。一旦グリンッと首を傾けると、『それ』は私の正面で口を開いた。まさか、コイツ私の顔を! ゆっくりと近づく奴の顔。

 「ンーーーッ!!!」

 私はもはや恐怖に耐えられずまぶたを閉じることすらできなくなっていた。私は涙と鼻水とよだれを撒き散らし泣きわめきながら、更なる激痛に備えた。
 だが、その時は来なかった。
 突如として化け物が左に消えた。反射的にそちらに目を向けると、化け物が街路樹に寄りかかり、うなだれているのが見えた。砂ぼこりが辺りを待っており、叩きつけられたときの衝撃の強さを物語っている。

 「大丈夫かにゃ?」

 右から声が聞こえてきた。痛みに耐えながらゆっくりと右を向いた。涙で輪郭が歪んではいるものの、あの猫娘が手をさしのべていた。淡い月明かりが後光のようだ。私は思わず彼女に抱きついた。

 「オパニャ!」

 「おわふ! 落ち着ついて! 胸あたっちゃってるから! っていうかなんでアタシの名前知ってるにゃ!?」