フールの鉛筆画ブログ

鉛筆画のイラストや絵を中心に描いています。黒髪が大好きです。時々短編小説も書きます。

妄想幻想クリエイター 上 短編小説


 子供の頃は妄想をするのが好きだった。RPGゲームにはまっていた影響か、自分が架空の世界で冒険するようなことをよく空想していた。自分の分身である主人公が野を越え、山を越え、谷を越え、師匠や仲間と出会い、強敵を倒し、ヒロインといちゃつくようなテンプレート的な物語だった。でも、話が長引くにつれて時空や平行世界や亜空間が登場して収集がつかなくなり、そのうち受験やなんやらで内容を忘れてしまった。メアリースーと中二病をごった返したような魔の産物だったが、あれはあれで楽しかった気がした。
 いつからだろうか、空想することが楽しくなくなってしまったのは。
 私は履歴書の下地きになっていたノートパソコンを起動。所定の動作を行うと、画面に中途半端なところで中断された文章が表示された。主人公の剣士が最初の敵と戦っている場面だ。
 小説投稿サイトに応募したものの閲覧者数一桁をマークする長編小説。他人に見られることを前提に書いてはいるものの、読者はほとんどいない。あまりにも人気がなかったので『小説の書き方』本や脚本論を読み、少しでも知識を頭に叩き込み、技術を磨こうと努力はしている。が、中途半端に知識を得たために迂闊に文章を書けなくなり、さらには自分が何を書きたいのかも忘れてしまった。
 それでも、唯一の固定読者である『ようせいさん』なる人のために書き続けていたが、二万字を越えたところで筆が止まった。
 小説を書いていても楽しくないし、読み返してもやはり自分の文章は駄文にしか見えない。読む人に『時間を無駄にした』という後悔を提供することしかできない、単なる文字の連なりだ。今日には素晴らしい映画や、漫画、アニメ、小説なぞゴロゴロと転がっているのに、誰がこの作品を読むのだろう。
 だが、たとえたった一人でも読者がついた以上、その作品を完結させずに捨て置くのはだめだ。自分の作品を読んでくれる寛大で心優しい読者さんに、本当に無駄な時間を提供してしまったことになる。書け、書くんだ。

 「はぁ......」

 そうはいったものの今日も書き進められない。まだ昼間だし、出かけるか......。



 美術館はいい。ただ単にいるだけでも心が穏やかになる気がする。不毛な現実から、甘美な絵の世界へと私を連れていってくれる。決して私のことを誉めずに貶し続けた上司の顔も、優しい先輩の悲壮に満ちた表情も忘れられる。平日のこの時間ならベタベタと引っ付き、意味不明な感想を言い合っているカップルもいない。しかも、創作者としてのレベルが違いすぎて自分と比較する気にもならないから、嫉妬心をあおられることもない。
 私は順繰りと通路を歩んでいく。ぼぉっと『あの絵はいいな』とか『あの描きかたすごいな』とか思いながらふらふらと美術館の奥へ。ストレスで失われた完成がひしひしとよみがえる気がする。他人の作品にたいしてすごく寛大に評価するのに、どうして自創作になるとあそこまで批判的になるのか自分でも不思議でならない。
 こう、ふと目を絵画からそらした時だった。通路脇にいる警備員さんのとなりにありえないものが立っていた。白いロングコートに身を包んだ少女である。恐らく私よりも5つか6つ位下、高校生から大学生くらいの子だろうか。ただ何よりも驚いたのは左右の耳に加えて、頭部に白い猫耳が生えていたことだ。さらに鼻がまるで猫のような......としか言いようのない形をしていた。あくびを隠すために口に当てた手には綺麗な毛が生え揃っていた。

 「は!?」

 警備員はそんな異様な少女が隣に立っているのにまるで気にしていない。美術館にいる他の客もまるで意に介していない。つまり私以外の人には見えていない。仕事を辞めてストレスフリーになったと思ったが、精神はすでに病に犯されてしまったのだろうか。こんなことならもっと早く退職届を出すべきだった。
 特殊メイクを用いたコスプレの可能性も考えたがそれもあり得なさそうだ。コスプレなら耳がヒクヒク動いたりしないはずだし、瞳孔が縦に細くなるなんてことはありえない。
 そして何より、彼女を私は知っている。
 彼女がこちらに気づいた。驚いたような表情で私を見つめてきた。
 私は震える足で美術館を後にした。彼女は追ってこなかった。
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