フールの鉛筆画ブログ

鉛筆画のイラストや絵を中心に描いています。黒髪が大好きです。時々短編小説も書きます。

幻覚の逆三角形 短編小説

 トワイライトトライアングル(以下T-Tと記す)はわたしが見てきた中でも特に異質な物質? だった

『××村の東の洞窟に入った男女二名が帰ってこなかった。捜索隊が派遣されたが、帰ってきたのは一人だけだった。その一人は錯乱しており、交通事故に会った、昔死んだ恋人がもう一度死ぬ体験をした、などと訳のわからない供述を述べた。過度の精神的ストレスにより錯乱しており……』

 私は新聞のスクラップの貼ってある手帳を閉じ、目の前の巨大な黒い穴に目を向けた。
 私は好奇心からその洞窟に侵入した。ある地点に村人らしき遺骸があり、その場で解剖し検死した結果、脳神経が変性、繊維化を起こし死んだものと推定された。
 訳がわからず私は先へと進んでいく。道中動物の遺骸もあったがその全てが脳神経の繊維化による変死だった。一部生き残っている動物もいるようだが、何かに怯えているかのように洞窟の奥へは進みたがらない。

 さらに進むと、ネズミがフラフラ通路のど真ん中を歩いてきた。普通なら光や音に敏感に反応して逃げるネズミだが、今私の目の前にいるネズミは全く私に意を介さず、フラフラと洞窟の外へと向かっていった。

 その他にも数匹のコウモリやネズミや蛇が洞窟の外へと、まるでゾンビであるかのようにゆっくりと力なく向かって行くのに遭遇した。

 私はちょっぴり怯えながら、さらに洞窟の奥へと進む。
 洞窟の一番奥の巨大な空洞に、奇妙な物体が空中に浮かんでいた。
 金色を基調に七色に発光する逆三角形。その三つの先端に同じく七色に輝く正三角形が三つついている、というなんとも奇妙な形状だった。
 私はどんどんその物体へと近づいていった。
 そして、半径十メートル以内に侵入した時、その物体の輝きが増した

 目眩がしたと思ったら、私は架空の都市にいて、国民全員から追跡を受けて行きも絶え絶えになっていた。それまでの洞窟での記憶は消え、なぜか『とある国を訪れて、そこで罪を犯し全国民から追跡されている』と思い込んでいた。国民の追跡は執拗で、自分の身を削りながらひたすら逃げてやり過ごした。
 最終的に海に飲まれることで、生存していたかどうかは別として追跡から逃れることが出来た。

 その瞬間、目の前に先程の三角形を4つ合わせた物体がが現れた。気づくと洞窟に戻っており、私の記憶も復活していた。私は幻覚を見せられている時に数歩後ろに後退したのか、あの物体から目算十一メートル離れた位置に立っていた。どうやら幻覚を見せられており、夢遊病と似たような感じでフラフラとこの場を歩いていたらしい。
 
 私はあの物体の名前を仮に、トワイライトトライアングル、略してT-Tと名付けた。
 
 後にT-Tを目視し生き残った人にインタビューを繰り返した結果、T-Tはどうやら半径十メートル以内に近づいた対象者に、対象者過去の恐怖体験を元に作られた幻影と記憶改竄を行うようだ。

 幻覚内では自分の等身大の力を使うことができる。また、幻覚内で見つけた器物を利用もでき、どこまでもリアリティを追求した幻覚だった。
 私の場合はかつてチュリグ国という国で実際に巻き込まれた追走劇の記憶を元に、状況をさらに悪化させたような幻覚を見せられた。幻覚内の疑似体験にも関わらず、目覚めたあと自分の心身は大いに疲労していた。

 対象者はごくごく自然な流れで幻覚内の出来事に遭遇したと思い込むらしい。幻覚を見ている間は現実ではT-T のそばをうろうろしており、T-Tに近づくほど幻覚からの脱出が困難になり、逆に離れるほど幻覚から逃れる可能性が上がる。このT-Tと対象者の距離は幻覚内の出来事とリンクしているようだ。

 そして精神及び肉体的に幻影内の恐怖体験を乗り越えなければ、対象者はT-Tに接触してしまい、T-Tからの圧倒的な情報量に脳神経が耐えきれず死ぬ。
 末期症状として光を求めて洞窟の外へと向かう。もっとも、その前に死んでしまうのだが。

 数回の動物実験の後、T-Tの幻覚は非常に危険であると判断した。生存率が低い上、生存したとしても精神に異常をきたす可能性が高い。
 破壊すべきだと考えたが、T-Tは半径十メートルに渡り高濃度のバリアを展開しており、破壊できなかった。移動することもなく、空中に静止しているだけなので、このまま放置しておくことにする。
 興味深い経験だったが、二度とこんなのは御免だ。