高二ストレンジ after
半年前に書いた小説。たまにははっちゃけようとした結果、本当に普段書かないような内容に……。
thefool199485.hatenadiary.com
⬆前回
「隣、いい?」
「どうぞ。もっとも、今は君以外に席は譲らないけどな」
スピネルはいつも通りの学生服ではなく、白のワンピースを着ていた。袖の部分に彼岸花の刺繍が入っている。胸には赤く光る宝石のネックレス。
白を基調にすることで、もともと童顔のスピネルがさらに幼く見える。気合いをいれて服を選んだ結果が、純潔の意味を持つ白の服とは。
黒い長髪を最大限に活かすように計算されていることは、文字通り目に見えていた。
「普段だったら昼休み。結局昼食を食べることになゆりるのね」
「まあ、いいんじゃないか?食べるものは全く違う訳だし」
僕はフォークを使って抹茶ケーキに巻き付いているフィルムを巻き取る。普段は途中でフィルムがフォークの先端から外れて哀しい気分になるけど、今回はうまくいった。
「へぇ、取り方知ってるんだ?そういえば抹茶もの好きなの?」
そう言いながらスピネルはシュークリームにナイフを差し込む。ど真ん中を貫かれたあわれなシューは、白いクリームを流して崩壊した。
胸にまで伸びる黒髪に、クリームがつかないか少し心配になる。
「まあね。抹茶オレとかよく頼む」
「草食系だから?」
「草食系の意味が違うとおもうんだけど。」
「あれ?」
スピネルは下を見ずにそう言いながらフォークでシューの皮を探った。シューの内蔵がぐちゃぐちゃに引き裂かれていく。会話に夢中で気づいていないのか?
「なら、生物君のことだから葉緑体の色にでも惹かれた?」
「ムグムグ……ゴク。何でも生物に絡めればいいってもんじゃあないぞ?まあ、正解だけど」
「正解なの!?」
驚きのあまりスピネルの手からこぼれ落ちたフォークが、原形のなくなったシューに添えられた。これを作った人に申し訳なくなってきた。
ようやく、スピネルはシュークリームの惨劇に気づいたらしい。なんともない、といった顔だったけど、新たに手にしたスプーンは派手に震えていた。
「まあ、普通に言えば緑色が好きで、それがきっかけで抹茶モノを食べておいしかった、ってだけだけど」
「なんだ。ビックリしちゃった」
顔を赤くするスピネルから思わず目を逸らした。照れ隠しにケーキを口に含む。スピネルの表情と口のなかに広がる抹茶の味であまーい天国につれていかれそうになる。
危ういところで、シュークリームの悲劇が僕をこの世に引き留めた。べとべとになったフォークは今だクリームの中に置き去りにされていた。
お手拭きで手を清めつつ僕は口を開いた。
「シュークリーム、大丈夫か?それ」
「スプーンですくえないの……」
スプーンとシューの皮がおいかけっこをしていた。クリームがシューの皮の摩擦を弱めてしまい、縦横無尽に動き回っている。
揺れに揺れる漆色の髪と、清楚な白い服が合わさり、とてもシュールな光景だった。
「……仕方ないな」
僕はクリーム色になったシューの皮を指でつまみ上げた。
そして、そのまま白くなった指先ごと強引にスピネルの口に突っ込んだ。
「ムグゥ!?」
少女の表情がみるみるとろけていく。
指先に柔らかくて熱いものの感触を感じた。絡み付いて、包み込んでくる。指の全神経を愛撫されているような錯覚に陥った。あまりの悦びに指が痙攣して動かない。
回りのお客さんの視線を感じ、ぬるりとスピネルの唇の狭間から自分の指先を引き抜いた。名残惜しく、スピネルの唾液が僕の指先に残っていた。
長い時間が経ったように思っけど、スピネルの口に指をいれてから引き抜くまで、数秒しか経っていなかった。