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フールの鉛筆画ブログ

鉛筆画のイラストや絵を中心に描いています。黒髪が大好きです。時々短編小説も書きます。

Parallel Factor ―under ground― 中

thefool199485.hatenadiary.com

3


 俺は小説とかで悪役が油断して死ぬのがたまらなく嫌いだ。プロの殺し屋が高笑いとかメルヘンかよ。
 だから俺は絶対に油断しない。相手が赤ん坊であろうが、瀕死で指一本動かせないようなやつであろうが、殺すと決めた奴は周到に準備して全力で殺す。

 今、旦那は俺の仕掛けたピアノ線の真っ只中だ。四方を囲まれて身動きできない。そして、ピアノ線を仕掛けたのは柱と柱の間だけじゃない。
 俺が天井付近に用意しておいたスイッチを押した。スイッチの先についていたカッターが重石と繋がった縄を切断。重石がゆかに落ちたことで、仕掛けが作動。床にセットされたピアノ線の罠が一気に天井へと引き上げられ、旦那を巻き込み宙釣りにするっ!
 コートは着ているものの旦那の全身にピアノ線が食い込む。旦那が罠にかかったのを確認して俺は叫んだ。
 「うてぇぇ!!」
 部屋が強い閃光に包まれた。
 俺の『友達』、具体的には八人の傭兵が一斉にライフル銃の引き金を引いた。宙吊りになった旦那の体が激しく揺れ、ぶたれたあとのサンドバッグのようにゆっくりと動きを静止した。
 普通の奴はピアノ線の罠で全身を切り刻まれて、もがき苦しみながら死ぬ。生き残った悪運の強い奴等はライフル銃で沈黙する。鬼なら血流量を増やして力を増大することができるが、そんな隙はなかったはずだ。
 旦那は恐らく鬼だ。身長はマスクを含めれば190㎝はあるし、黒いコートを羽織った旦那は俺の倍くらいの図体をしている。鬼は本来しなやかな体つきの筈なんだが、常識はずれの輩なんていくらでも見てきた。
 鬼は生まれの地方特有の楽器をかき鳴らすことで、シンボルと呼ばれる神様の力の加護を受け止めて、力を高めることができる。
 さっきの鬼は反乱防止のためあらかじめ楽器を取り上げられていたから、あの程度の力だったが……。
 まあ、そもそも楽器は演奏しなければ効果がない。こうして静かな間は少なくとも旦那がパワーアップするなんてことはない。

4

 死体の確認に向かおうとした矢先、何かの破裂音とともに視界が黒色に包まれた。火薬の臭い匂いが鼻につく。
 煙幕かっ!
 俺以外は大まかにしかピアノ線の配置を知らねぇ。見なくても自由に動けんのは俺だけだ。あっさりとこの包囲網の弱点をついてきやがった。
 
 ピンッ、ピンッ、ピンッ!

 ピアノ線が切れる音だ。傭兵どもはどこにいるかわからない敵に戦々恐々としている。ピアノ線の位置がわからなくなったから、その場から動くことも出来ねぇ。
 「ピアノ線の切れる音から旦那の位置を推測しろ!旦那はお前らよりもさらにピアノ線について疎……」
 俺の言葉は悲鳴によって遮られた。裏返った声が男の恐怖を表していた。叫びは不自然に途切れ、そのあと得たいの知れない水音が室内にこだました。
 その後続けざまに二人の凍りつくような声が部屋に響き渡る。
 なんだ?どうなっていやがる。部屋を進むスピードがいくらなんでも早すぎる。ピアノ線は黒く塗ってある上、煙幕に視界が遮られている。それなりに見つけにくいはずだ。こんなにバッサバッサ切られる訳がない!
 俺は急いで声のあった方向に向った。近づくにつれて柱や天井に赤い斑点が増えていった。
 
 やられた。

 殺った奴の血をぶちまけることで、ピアノ線の位置を把握したんだ。足下のピアノ線さえ気を付ければ、あとは多少強引に突っ走っても工夫次第でなんとかなる。
 
 「来るな化けもん!止めろ!わかった言うよ!そこにあるので罠は全部だ。━━ほら言ったぞ。だから助けてくれ。助けて助けてたすけてタすケてタスケテ……」
 「おっオレの腕を返してくれ!オレの右手!右手ぇぇ!!頼むお願いだか━━」
 ようやく煙が晴れてきた。同時に床の生々しい血痕が俺の目に写りこんだ。既に部屋のピアノ線はほとんど切られ、床に仕掛けておいた罠も無力化されてやがる。
 ライフルも罠も通用しない化け物。四方に広がる血の斑点。確実に近づいてくる恐怖。もはや傭兵たちにとって旦那は『死』そのものに思えるんだろう。
 「私達は逃げるぞ!もう無理だ!限界だ」
 「ばか野郎!そっちは危険だ!向こうの入り口だ」
 「いやダメだ!待ち伏せされている」
 傭兵の足音が出口に向かった。しかし、
 「ア"アあぁ!!足首が!足首から下がっ!さっきまでなかった!誰だこんなところにピアノ線を張った奴は!!!」
 「ピアノ線が!顔が!顔が顔が顔が!」
 うっ、という三人の声を境に完全なる沈黙が訪れた。

5

 音もなく、部屋の奥にペストマスクが浮いていた。カンテラに照らされて、マスクが浴びた血が鈍い光を放っている。
 「ずいぶんと怖いことをしてくれますねぇ、旦那ぁ。精神的に追い詰めてなぶり殺した挙げ句、切り損ねたピアノ線の正確な位置を知るための盾にするなんて」
 再び目の前には現れた旦那は想像以上にピンピンしていた。防火防弾コートの下に防弾ベストを着ていたようだ。ライフルで両方ともボロボロにはなっているが、本体はほとんどダメージを受けていない。普通の防弾コートならライフルは防ぎきれない筈だし、奇跡的に防げたとしても射たれた衝撃で骨がバキバキになっていてもおかしくない。
 やはり旦那の種族は鬼で確定だな。
 もともと鬼の筋肉はゴムのように弾力性があって、ただでさえ衝撃に対してバカみたいに強い。フツーなら動きやすさを重視する筈なんだが、旦那はその筋力の殆どを防具のためにつかっているらしい。色々と狂ってやがる。
 「殺してはいない。何事にも作法というものがある。たとえ人殺しであってもな」
 「そうですかい。なら俺は殺しの作法を旦那ごとぶち破ってやりますぜ」