フールの鉛筆画ブログ

鉛筆画のイラストや絵を中心に描いています。黒髪が大好きです。時々短編小説も書きます。

高二ストレンジR-7

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 目の隅っこに『通学路』の標識がうつる。その奥には今にも雨が振りだしそうなドンよりとした曇り空が広がっていた。
 住宅地の狭間で僕は声を張り上げた。
 「なあ、頼むサンダー。もう一度スピネルとよりを戻してくれないか?」
 僕は延々と説得を続けている。スピネルの願いであり、赤崎の頼みだ。そして恐らく山田も心の奥底でそれを望んでいる。退くわけにはいかなかった。
 スピネルとサンダー、そして僕はある一点で似ていた。自信がなく、人に素直に気持ちを伝えられない。
 「いいや。生物君、俺はあいつを満足させてやれなかった。そして今も、あいつを幸せにしてやれる自信がないんだ」
 サンダーはそう言って軽くうつむく。自虐して要求から逃げようとするサンダーに、僕は少し声を荒くした。
 「スピネルは本気でお前のことを想っているんだぞ。『三年前と同じように愛してくれればいい』ってな。もういいだろ!」
 「じゃあ、生物君はどうなんだよ?」
 「は?」
 サンダーの予想外の返答に一瞬思考が停止した。
 サンダーは犯人を問い詰める探偵のような口調で続ける。
 「俺にはお前の言葉から『お前自身の』感情を感じ取れない。ふたを開けたまんま1週間放置した炭酸ジュースよりも言葉に気迫がない。どうせスピネルと赤崎の指示だろ?だからもう一度言う。お前はどうなんだよ!」
 何を言うか迷った末、
 「別になんとも」
 と返す。山田は納得しない顔だ。一向に顔に張り付いた疑いの色が晴れる気配がない。
 「そうじゃない。今回の件に関してじゃねぇ。スピネルをどう思ってるかだ」
 同じ質問に対し、僕は自分の意思を貫いた。
 「別に、なんとも」
 そしてサンダーの出方を見る。僕はさながら獲物の隙を狙う狼のように山田の言葉を待った。
 「スピネルはお前のこと結構気にってるぞ?」
 かかった。さながら細菌濾過器を通過出来なかったプランクトンのようだ。一転攻勢。一気に捲し立てあげる。
 「どうかな?女はな、生物学的に安心を求めるんだ。だからいつもグループを作る。人に合わせるんだ。でもな、裏で何を思っているかなんて誰にもわからない」
 僕は今まで学んできた、歪みきった女性観を吐き出した。
「女は人付き合いのためなら平気で嘘をつく。僕は、一見して親友に見える二人が、実はお互いに他の友達に『親友擬き』の悪口を言っているところを見た。表面上は『私たち気が合うの~』とか言っておきながら、裏では『アイツはグズ!』とか言い合う」
 山田が手を握り閉めた。さらに、口を固く閉ざし、見開いた目で僕をい抜く。
 僕は気づかないふりをしてさらに声を大きくした。
 「スピネルも裏で僕のことをどう思っているかなんて分からない。きっと僕の知らないところで、友達に悪口でも言いふらしているんじゃないのか?今も昼休みに話しかけてくるのは暇潰しか、あるいは利用価値があるからか?」
 「俺はスピネル本人から聞いて……」
 とうとう耐えきれなくなったらしい山田が口を挟んだ。僕は今までのスピネルの印象や過去の出来事から、ありもしない悪口を無理矢理つくりだした。
 「山田には形式だけでも純粋な乙女を演じているだけなんじゃあないか?お前の友達を誉めておけばお前のスピネルに対しての評価も上がるしな。いいこぶってるのも全部策略かもしれないぞ。『男を』堕とすためのな!」
 山田の顔がみるみる赤くなるのを感じる。手が震えて今にも殴りかかりそうな雰囲気だ。
「ナチュラルメイクにスカートを好むってのも気になるしな。お嬢様気質ってのも怪しい。黒髪清楚、どう考えても男に媚びているようにしか思えない」
 突然腹にAEDされたような強烈な痛みが走った。衝撃に耐えられずアスファルトに叩きつけられる。気管支がショックで閉塞したのに対して、肺が空気を欲しがって悲鳴をあげた。
 「てめぇ、黙っていれば根拠もないスピネル悪口ばかり!!」
 僕は必死に吐き気を押さえながら、どうにか声を張り上げた。
 「裏切られたのにまだ信じれるのか?!スピネルのことを!」
 「ああ、そうさっ!悪いかっ!」
 肩で息をしながら山田が叫ぶ。あだ名の通り雷の荒々しさだ。スピネルが山田にこの名をつけた理由、そして柏木がサンダーに破れ去った理由がようやくわかった。
 僕は最後の力を振り絞り渾身の言葉を言いはなった。
 「そんなにスピネルのことを信頼してんならもう一度やり直せよ!!」
 「ああ、やってやるさ。お前みたいなやつにスピネルをとられてたまるか!」
 そう言って倒れている僕に目も向けず、サンダーは行ってしまった。


 アスファルトが冷たい。


 僕は暫くして、ようやく立ち上がることができた。
 頭に違和感を感じる。それが雨だと気づいたときにはもうすでに体はびしょ濡れだった。でも傘をさす気にはとうてい慣れない。体温を奪われることの重大さは十分わかっていたけれど、それ以上のに無力感が僕を支配していた。

 仕方なかった。僕には赤崎や柏木のように、問題をスタイリッシュに解決する能力やはない。かといって、ここまでスピネルの過去を無断で立ち入った上に人として大切なことを教えてもらった以上、『今の』僕にはなにもしないという選択はなかった。なにもしないよりは大失敗して自分の評価が落ちぶれる方がよっぽどよかった。

 事故犠牲じゃない。自己満足だ。そう思わなければ、色々と諦めきれない。
 僕は満足、満ち足りている、これ以上望むことはない━━。

 

 中学の時、カノジョを親友に奪われたショックや、部活で女子の陰口ばかり聞いていたせいで人間不信になりかけた。
 僕はもともと信頼できる友達すら疑う人間のクズだったんだ。
 高校に入って、赤崎を中心とした友達のお陰で男子に対してのわだかまりは消えた。でも、無意識のうちに女子を避けて学校生活を送っていたために、女性不振は余計に酷くなっていった。高一の後半には、女子に『おはよう』と声をかけられても内心恐々として、答えられない程だった。
 でも、スピネルは裏表のない純粋な友達として僕と接してくれた。そして、スピネルの過去に触れることで、世の中には白辺さんの他にも信頼できる女性も存在するということを思い出すことができた。
 僕はそれだけで充分だ。

 

 気づかないうちに頬が濡れているのに気づいた。多分雨が降り始めたのだろう。そうでなきゃ、やってられない。この湿り気が自分の本音だなんて、死んでも認めない。