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フールの鉛筆画ブログ

鉛筆画のイラストや絵を中心に描いています。黒髪が大好きです。時々短編小説も書きます。

高二ストレンジR-4 短編小説

短編小説 独り言 高二ストレンジ

前回↓
thefool199485.hatenadiary.com


 僕はゆっくりと机から顔を離す。まだ目がぼやけていた。夕陽が教室に差し込んでいる。僕以外のクラスメイトはみんな帰ってしまったようだ。最近の寝不足のためか、ホームルームの後爆睡していたらしい。
 僕はいつも通り一番右の二番目の席に座っていた。一席挟んで目の前にドアがある。
 大きな僕は大きなあくびをして、そのまま仰け反り、後ろを見る。すると、一番後ろの席に一人男子学生がいた。僕は驚き、そのまま体勢を崩して床に倒れた。
 静かな教室ダッンという擬音が響き渡った。
 「大丈夫かい!」
 後ろの席の学生が僕にてを伸ばしてくる。僕はその手をあえてとらず!自分で立ち上がった。
 「ちょっと驚いただけだよ」
 改めて、その生徒の顔を見た。並みのホストよりもよっぽど色気とカリスマ性がある。不思議とこの男子を見ていると自分から自信が沸き上がってくるようだ。
 「ぼくの名前は柏木栄才だ。よろしく。きみは生物君だっけ?」
 「何でわかるんだ?」
 よく見ると他校の制服だ。
 「きみの学校の友達に聞いたんだ。かつてのクラスメイトがいるもんでね。ところできみ、相当悩んでいるようだね。主に、スピネルについて。僕が相談に乗ってあげようか?」
 とても優しい笑顔で柏木英才は問いかけた。僕は何の表情も浮かべず
 「いや、いいんだ」
 と言いはなった。他人に相談するまでもない。最初から答えは見えている。
 柏木は気にせず続ける。
 「きみに対してスピネルはそれなりに好意を示していると、僕は思うよ」
 「僕はスピネルのことを友達だと思ってる。恋はしていない」
 「でも、きみは現にここまでスピネルのことを想っているじゃないか。夢にまで出てくるくらいに、ね」
 認めたくなかった。過去の経験から人を好きになるとどうなるのか、僕はよく知っていたからだ。ただ、めんどくさいので、スピネルに淡い思いを抱いていると仮定して話を進めた。
 「でも、山田の気持ちを考えたら、とても……」
 「『知り合ったのが遅かった』それだけのためにきみはスピネルを諦める必要はない。先手を打つべきなんだ。きみのためにも、そして、スピネルを罪意識の呪縛から解放するためにも。今ならスピネルの過去を知っているから、山田との情報格差も殆どない」
 僕は柏木の甘言を容赦なく否定する。
 「スピネルが受け入れてくれるとは限らない」
 柏木は楽しそうに答えた。
 「いいや、受け入れ『させる』んだ。そのためにどうすればいいのかきみはよくわかっている。かつて彼女に刻み込まれた罪悪感をほんのちょっぴり利用すればいい。スピネルは、【生物君がスピネルの過去を知っていること】を知らない」
 きみのためを思っていっているんだ、という顔で柏木は僕の顔を見つめる。恐ろしいくらい整った顔だ。
 「腫れ物に触れるように慎重にスピネルの過去に触れてから、きみが慰めの言葉の雨をかけてあげれば、いとも簡単に彼女はきみのもとに落ちるだろう。それも、彼女と山田が望む形でね」
 怪訝な顔の僕に対して、あくまであくまで柏木は仏フェイスを崩さない。
 「きみは他人を思いやることを言い訳にして、自分の人生から逃げているんじゃないか?きみの人生の主役はきみだろう?もうそろそろ自分のために生きてもいいころなんじゃないか」
 そんな彼に僕は最大の疑問を柏木にぶつけた。
 「君はなんなんだ?」



 突然教室のドアが開いた。驚いてそちらのほうを見ると、肩で息をしている赤崎がいた。左手にスマートフォンを握りしめている。
 「はぁ、はぁ、なぜ他校生のお前がここににいる!柏木ぃ!」
 「やあ、久しぶりだね。出てきたんだよ。きみがおすすめしてくれた施設からね。ついでに面白そうだったからこの学校に寄ったんだ。きみがかつて興味本意で山田の願いを聞いたように」
 赤崎を越える美青年は、学ランのポケットから会話力を最大限に駆使して手に入れた、学校の出入り許可証をちらつかせる。
 怒りにうち震える赤崎に対して、柏木は僕に見せたように慈愛に満ちた表情で、だ。
 赤崎は僕に向かって叫んだ。
 「生物君、こいつの言葉に惑わされてはいけない!きみは今まで通り友達のことを思いやって行動すればいい」
 「そのあとに続くのは『余計なことはするな』、だろ。友達想いにしては随分と抑圧的じゃあないか」
 僕は頭の中で反芻する。一体柏木は何者なんだ?
 僕が頭を抱えている間に、青年は鶴のような優雅さでゆっくりと赤崎に近づいていく。
 憎しみで赤崎は今にも殴りかかりそうだ。なんに対しての憎しみなのか全く理解出来ない。過去、二人に何があったんだ?
 「きみは友達をチェスの駒のように動かして『仲良し帝国』を作りたいだけだ。確かに見かけ上は理想的な友人関係になるかもしれないが、その裏で赤崎という存在によって常に個人の意思が管理、抑圧されているんだ。それは本当の意味の『友達』じゃあないんじゃないか?反論はあるかい?」
 「大有りだ!他人の恋人を奪い、その上アザまでつけた時点でお前は人間失格だ!」
 赤崎の言葉に珍しく説得力がなかった。感情的になっているらしい。
 でも、彼の一言で僕はこいつの正体を知ることができた。
 「誰だって『あそこ』までスピネルがつまらなそうにしていたら、相談にのりたくなっちゃうだろう?」
 一瞬サンダーの言葉が脳内にフィードバックされた。

【破綻したのは完全に俺のせいだよ。俺はな、スピネルと付き合っている間も自分のことしか考えていなかったんだ。『俺がこんなに楽しいのだから、スピネルも楽しいに違いない』ずっとそう思い込んでいた】

 「それに、スピネルにアザが一ヶ所あっただけで僕を精神病院に叩きつけたきみも大概だと思うけど。しかもスピネルから殴りかかってきて、どうにか落ち着けようと押さえた時のアザだよ?『洗脳した』とか推測だけで物事を語るのもクラスメイト想いのきみらしくない」
 「妄言の塊だな。信用に足らん」
 「それに僕が精神病院に連れていかれた原因は、今回の件とは全く関係のない、学年を掌握するために僕がしていた裏工作が原因だよ?」
 今、さりげなく驚愕の事実が明かさた気がした。そして、先日赤崎から感じた違和感の正体がようやくわかった気がした。赤崎は柏木がスピネルを『洗脳した』と言っていた。しかし、それが事実であるなら、山田は柏木のことを話すとき冷静でいられるはずがない。かといって赤崎が嘘をついているとも思えなかった。ここから導き出せる真実は━━。
 「ふん、どうだか。精神病院に連れていかれた理由はお前にしか知らされていないようだしな。嘘ならいくらでもつける」
 赤崎の言葉を柏木はそよ風のように気にせず、後ろを向いて歩き出した。
 「わかったよ。そこまで言うならぼくはもう『きみたち』に関わらない」
 柏木が僕の隣を通り抜ける。その時満面の笑みを僕にプレゼントしてきた。僕はどうすればいいのかわからず、呆然としていた。
 「お互いの欲望も含め嫌な部分も尊重しあう、それこそが新の友情だと思わないか?」
 柏木は最後に僕に疑問を投げ掛けて去っていった。

 柏木を見つめる赤崎は、哀しみと怒りと無念と申し訳なさで今にも泣き出しそうな顔をしていた。
 高校一年の時に知り合ってから今まで、赤崎のこんな顔を見たことがなかった。僕の知っている赤崎は完璧で憧れで……。
 僕には何故赤崎がこんな顔をするのかわからなかった。