娘に話したらドン引きされました 短編小説
わたしが結婚してまだ間もないころの話。
ひとつのいすを半分ずつ分け合って座って、わたしたちは語り合っていた。ふとしたわたしの一言がきっかけだった。
「ねぇ、あなた今何のことを考えているの?」
「とある女の人のことさ」
私は不穏なものを嗅ぎ取ったような気がした。
「それって、誰?」
彼はいたずらっぽく笑って答えた。
「君みたいに黒く長いあでやかな髪、華奢な手足、子顔、そして何より天使のような笑顔の人」
その言葉を聴いたとき、あるイメージがわたしの頭の中に浮かんだ。
――ここは駅のホーム。私は電車待ちの列に並んでいる。背中姿の目の前の少女は、私と同じく黒くあでやかな長髪を揺らしていた。
『まもなく、電車が参ります。黄色い線の内側まで・・・・・・』
視界が電車のライトに照らされて青白く輝く。
私はそっと前の背中を押した。まるで導かれるように少女は線路へと落ちていった。彼女の体勢が崩れ、横顔が私のほうへ向けられる。その顔は――
「これから生まれてくる娘の事さ」