フールの鉛筆画ブログ

鉛筆画のイラストや絵を中心に描いています。黒髪が大好きです。時々短編小説も書きます。

或ルドラゴンの冒険 3

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 足が割と悲鳴をあげてきたとき、不意にその祠は現れた。探そうと思わなければまず見つかりそうにない。大きさはお姉さんと同じくらいの高さだが、苔むして周りの風景と一体化している上、その辺の石ころと同じような感じで建てられているのだ。
 「ここがその祠か。結構歩いたな」
 「そそ。ここには悪魔がいて、祈るとストレスを抜き取ってくれるらしいよ。ほら看板にも『ついでに肩こり直します』って書いてあるし」
 「ずいぶんとサービス心あふれる悪魔だな」
 お姉さんは目を瞑るとパンパンと手を合わせ祠に祈るようなポーズをとる。森のど真ん中で『ンージャラカホイ』とかやっている人を見る機会は、二度とないだろう。
 こみ上げる笑いを口元で抑えていると、目の前で祈っているお姉さんの後ろに黒い何かが現れた。その「何か」は一呼吸もしないうちにお姉さんの背中から得体の知れない奇妙な色をした物体を取り出し、その場で握りつぶした。
 「あ、なんか気分がよくなった気がする」
 とお姉さんが言ったのと
 「ようやく会えた」
 と私がつぶやいたのは同時だった。

 

7


 迷彩服に身を包んだ悪魔がそこにいた。手にした望遠鏡をクルクルとまわしながら話し始めた。その声はずいぶんと低く、見かけの割りに透き通っていた。
 「私は人の『抑圧された感情』を具現化し、物理的に消し去るのが仕事だ。告白して振られた友達を気遣ってカラオケで恋歌を歌わなかったとか、そういう我慢の結果生まれたもの。自分でも気づかぬうちに溜め込むちょっとしたストレス。それを消すのが私の仕事だ」
 悪魔はいったん声を切った。私はそれを見逃さず、すかさず反論した。
 「だが、私に対しては本人に了承もとらず、土足で家を踏み鳴らし――」
 「それほど事態が急だったからだ」
 どすっと突き刺さるような声が森に響いた。
 「セキリュウ、君は幼いころ父と母に見捨てられ、物乞いや他人の家に泊めてもらうことで生きながらえてきた。君にとって人とのつながりは死活問題だったそれゆえ君は他人とっての友であり、師であり、鏡であろうとした。『真の親友』を演じることが君にすべてだった」
 なんとなく察しがついた。長老が全部この悪魔に私の情報を売ったのだ。でなければ初対面のやつが私の過去を知っているはずがない。
 「しかし君自身は、は愚痴をこぼしたいときも人に迷惑をかけまいと我慢してきたし、友人が羽目をはずしているときも一歩身を引いて決して冷静さを失うことはなかった。自分の考えと違うことでも友達のためなら平気で口にした。がまん、がまんっ!がまん!!!その結果、君自身の欲望はすべてどぶに捨ててきたし、自分の意思は理性で押さえつけていた。君は――」
 「俺の喜びは人に必要とされることだ!それによって俺は満たされている!今のこの状況に何の不満もない!」
 っとここで脇から声が響いた。
 「そこまで怒らなくていいんじゃないの?相手の思うツボよ」
 お姉さんが少し困ったような顔で私を見ていた。
 「俺は切れてなどいない」
 「一人称が『私』から『俺』になってるよ~?」
 ハッとして私は頭を横に振り、それから冷静を装いながら口にした。
 「もういい、カウンセリングはもううんざりだ。それにお前は私の家や心にまで踏み込んだのだ。無理やりでも聞き出させてもらう。その後、俺が、お前を!警察に突き出す!」
 お姉さんが横でくすくすと笑っていた。