もう一人のシンデレラ 下
「遅いお帰りでございますね」
スピネルは眠そうにいいました。目を真っ赤に晴らして。
おばが言いました。
「もしあんたが舞踏会に行ったなら、眠くなることなんてなかったわね。だって、きれいなお姫様が現れたのよ。この私よりも美しかったのよ。すごく礼儀正しくて、私に果物なんかをくれたの」
「そんなに美しい方でしたの?」
スピネルは面白くなさそうにしました。嫉妬の炎がちろちろと胸の中でともっていました。一応、お姫様のお名前はなんておっしゃるのと、訊きました。
おばは、名前は知らないけど、王子様は彼女にどきどきしていたわ、と答えました。
「ああそうそう、もちろんお前に貸すドレスなんかないからね」
翌日おばが出かけていくと、スピネルの前にまた魔女が現れました。
「かわいそうなスピネル。わしはわかっているよ。あのお姫様のせいですべてが台無しになってしまった。そうだね」
スピネルは今にも泣きそうな顔でうなずきました。
「あのお姫様はシンデレラ(灰かぶり)、と言うんだ。義母と姉からつらい仕事を押し付けられて、毎日苦しい思いをして生活していた。そして舞踏会の日シンデレラは魔法をかけてもらった」
スピネルはハッとしました。
「そうだよ。スピネルと同じさ。同じように魔法で美しくなった娘だよ」
「じゃあ何でシンデレラはあんなに美しいの!私もシンデレラと同じくらいつらい目にあって、でもがんばって自分を殺してまでいい子にしてきたのに!」
魔女はすごくさびしそうな顔をしていいました。
「それはね、スピネル。才能だよ。神様が理不尽に決めた生まれついての力。シンデレラはスピネルみたいに取り繕っていい子にしているわけじゃない。生まれつきこの上なく素直でやさしくて・・・・・・きれいなんだ」
スピネルはとうとう泣き出してしまいました。自分がすべてにおいてシンデレラに劣るということがわかったからです。
「じゃあ、どうしたらいいの?」
「あの王子様をあきらめてほかの貴族たちと取り合うしかないだろうね」
「でも、ほかの貴族たちもシンデレラに釘付けだったわ!」
スピネルは金切り声をあげて駄々をこねだしました。日ごろ我慢していたものが全部はちきれてしまったのです。
「やっと希望が見えたと思ったのに!やっとおばから逃れられると思ったのに!いつか王子様が着てくれるって信じてたのに!」
魔女はスピネルの頭にぽんと手を置きました。魔女の手はとても暖かく心地よいものでした。いつの間にかスピネルは泣き止んでいました。
「才能のある者に勝つにはそれ以上に努力して勝つしかないんだ」
魔女はそういってスピネルに微笑みました。でも、スピネルは不満そうに言いました。
「努力しても報われないことはあるでしょう?今みたいに」
魔女は微笑みを崩しませんでした。
「でも、努力しないよりも努力したほうが報われることが多いんじゃないかい?」
スピネルは毎日理不尽な目にあっているのがいやであるのにもかかわらず、自分は何も行動を起こしていないことに気がつきました。今までずっと人任せに生きていたことをようやく理解したのです。
スピネルは静かにうなずきました。
「わたし、間違っていたわ。いつか必ず誰かが助けに来てくれると、そうおもってた。でも、自分が努力と何も変わらないのね」
いつの間にかスピネルの着ていた服がきれいなドレスになっていました。
「よくわかったね。これならわしも安心してスピネルを舞踏会に送り出せるよ。さあ、もう時間がない。早く馬車に乗って」
魔女は最後にいいました。
「自分に自信を持ちなさい」