佐藤ミヨリの友人 1
この前あの子の祖母がお亡くなりになった。一人の人間としてもその子の教員としても悲しくて仕方がなかった。教員歴二年目にして突然の出来事だった。
今日も教卓に立ち、朝のホームルームを始める。あの子は今日も学校に来ない。周囲の生徒はその子の席にちらちらと目を向けている。あの子はみんなに心配をかけたくないために病欠を装っている。
しかし、どうも様子がおかしい。あの子の祖母のことは誰一人としてばれていないのにもかかわらず、クラス全体が暗い雰囲気を醸し出していた。
つぎの日、あの子の友達である佐藤ミヨリさんから、私と二人でお話をしたいとお願いをされた。ただ事ではないことは生徒の目を見れば一目瞭然だった。私は放課後の教室で待ち合わせをした。
夕日が差し込む中、教室のドアが重々しく開いた。
「失礼します」
まるで足にかせを付けられた奴隷のようだ。眉間には皺が寄せられていた。
「先生、忙しい中ありがとうございます」
私はできる限り生徒と対等であろうとした。彼らの雰囲気から教員と生徒と言う次元をはるかに超えた出来事が起きていると感じたからだ。私は彼女に生徒用の机に着くように勧め、私は隣の席に座り体を横に向ける形で座った。そして、彼女が切り出すのを待った。せかすべきではない。
とうとう彼女が口を開いた。
「すいません、かなり長くなると思いますけどいいですか?」
「いいよ。好きなだけ話してね」
1
あの人と私が初めて出会ったのはだいたい一年くらい前でした。友達の家に遊びに行ったとき偶然会ったのです。
「ごきげんよう」
それが彼女の挨拶でした。こんにちは、ではなくごきげんよう。私は普段聞き慣れない挨拶にどぎまぎしてしまいました。
襟の部分にバラの刺繍が施してある白いシャツ。そして合唱団で着るような黒いロングスカートを身にまとっていました。しかし、何よりも私の目を引いたのは美しい黒髪のショートカットでした。
「え、あ、ごきげんよう?」
私がおどおどして答えると彼女は私に微笑みかけてくれました。真心のこもった美しい笑みでした。
「ごめんなさいね。わたしの癖なの。普通に返してもらって結構よ。早速で悪いんだけど」
彼女は自分のピンク色のショルダーバッグの中からするりと通信機器を取り出しました。
「メルアド、交換しない?」
2
彼女とはほどほどにメールやSNSのやり取りをしました。頻繁でなくかつ疎通ではない、友人として好ましい距離を知っているようでした。
「わたしの名前はスピネル・フリージア。スゥーちゃんって読んでくれると嬉しいな」
「私は佐藤ミヨリです。よろしくお願いします」
「かしこまらなくていいのよ。もっとフランクに付き合いましょうよ。そうねぇ、貴方のあだ名は?」
「学校ではミヨっちって呼ばれてる」
「そうなの。じゃあわたしもそう呼ぶわ」
女友達同士での複雑な人間関係にうんざりしていた私にとって、彼女とのやり取りはとても気が楽でゆったりとしたものとなりました。