観光名所 エクスカリバー
「これは何ですか?」
私は地面に不用心に刺さっている刀を指差して言った。黄金色に輝く柄が酷く場違いに思える。
「この町の観光名物の一つエクスカリバーです」
「でも、神話のエクスカリバーって剣ですよね」
いやいや、と言って私の隣にいる兎はせせら笑った。
「まあ、聞いてくださいよ」
元々この刀は聖なる剣のたぐいでした。円卓の騎士、アーサー王が振るっていたとされています。彼はこの魔剣それなりに人やら化け物やらをばっさばっさと切り倒して行きました。しかし、エクスカリバーは戦争を体験する中で他の魔法剣が折られていく様や人が無残に死にゆくさまを何度もその刀身に焼き付けることになります。そのうち、エクスカリバーは戦場を目にするのが耐え難い苦痛、つまりトラウマになってしまったのです。
「トラウマ? 剣が?」
「ええ。不思議でしょう?」
そのうちエクスカリバーはアーサー王が柄を掴むことさえ拒否するようになりました。そこで、アーサー王はこう言ったわけです。
「人や魔物を切らないのならばお前は何を切るのだ?」
そこでエクスカリバーはこう答えました。「野菜を切り、料理の常識を断つ」と。
「その結果がこれです」
と言って兎は地面に突き刺さった魔包丁に笑いかけた。
「このエクスカリバーを使えばどんな野菜でも豆腐を切るように軽い力で両断できます。みじん切りにはもってこいです。まあ、持ち主を選ぶので実際にこの包丁を扱えるのは、料理界の巨匠と呼ばれるほんの一握りの人たちですがね。ちなみに人を含む生物を切ろうとすると、まるでゴム製包丁で物を切っているかのようにものすごく切れ味が悪くなります」
「で、扱える人がいないときは観光名所になっていると」
「そう言うことです。この意思をもつ包丁もそれを望んでいるらしいですね。やはり平和な世が一番です」