フールの鉛筆画ブログ

鉛筆画のイラストや絵を中心に描いています。黒髪が大好きです。時々短編小説も書きます。

闇に生きる猫 下

 

アタシは待ち続けた。待って待って待ち続けて。とてもとても長い間、帰りを待っていた。でも、彼は戻ってこなかった。

途方もない時間が過ぎた後、何者かが扉を開けた。

「にゃ!!」

アタシは興奮して扉の前に座った。

かえってきたにゃ。ようやく!彼が!ミスターLが!!

でも、その興奮も一瞬にして冷めた。扉の奥に立っていたのは知らない人。少なくとも彼ではなかった。だれ、こいつ。

「これが・・・お前の言っていた・・・宝物か・・・。ミスターL・・・。」

白いマント、シルクハット、片ぶち眼鏡。そして、夜色の体。

アタシと同じ匂いがした。

「シャアアアアァァァ!」

伏せて相手を威嚇する。少しでも体を大きく見せるために尻尾を逆立て、毛をみなぎらせた。

「ワタシは敵ではない。ワタシの名はノワール。地位は伯爵。そして・・・ミスターLの主だ。」

彼が身を尽くしたあの伯爵!

「なるほど・・・。強力な呪詛がかけられているワ~ル。お前が望むのであればその呪い、解いてやるでワ~ル。」

呪いを解く・・・!!そんなこと今まで考えてもみにゃかった。いいや、逆に考えなかったのがおかしいのかもしれない。普通は不自由な身になれば自由を望むはずにゃ。

でも、アタシは・・・。

アタシは首を左右に振って答えた。あの忌々しいからだに戻るよりも、この体でいた方がずっといい人生を歩めるだろう。

「だが、ミスターLはもうこの場所にはかえってこない。あるべきところに帰ってしまった。」

アタシは左右に首を振り続けた。こいつは嘘をついているにゃ。アタシは何の根拠もなく、そう、きめつけた。

「・・・お前が彼を追いかけるには、あのエルガンダーに乗って彼を追わなければならない。そのためには・・・人の体が必要でワ~ル。」

追う?彼を?

伯爵は静かにうなずいた。まるでアタシの言葉がわかっているように。

「そうだ。」

アタシは首を横に振るのをやめた。

彼を追う。その言葉がやけに心にしっくりきたのにゃ。そして、伯爵に懇願した。呪いを解いてください、と。

 

 

 

やけに地面が遠く感じる。高い。巨人に乗って地面を見下ろしているみたいだ。長い手足に違和感と懐かしさを覚えた。

「そうだにゃ。これがアタシの体。」

衣服も懐かしい。何もかも懐かしい。

・・・あれ?・・・鏡?

「これからミスターLにお前が出会うためにはまず・・・・・・ちゃんと話を聞いているのでワ~ルか?」

「あれ、肌の色ってこんなに明るかったっけ?頭の上に耳なんてあったっけ?いや頭の横に耳なんてあったっけ?あれ?」

「・・・完全に術を解くに至らなかったようでワ~ル。だが、その姿でも問題はなかろう。」

「まあ、にゃいけど。」

いいの?

なんか元の格好より数段可愛くなってるけど。胸もなんかいい感じに盛り上がってるみたいだし・・・。目もこんなにぱっちりしてなかったし。でも、昔もそうだったような気がしないでもない。

つい最近まで人の姿だった。

あれ・・・?

思考が空転を繰り返す。気がつくと、アタシのもとの体というものが思い出せなくなっていた。猫として暮らしていた間にこれまでの過去を全て捨ててしまったようだった。思い出せない。

いや、思い出したくないのか?そもそもアタシはどこで生まれて育ってここにいるのにゃ?

「伯爵なんかしたにゃ?」

「・・・いいや。」

「そうにゃらいいんだけど。」

「話を続けていいワ~ルか?」

「何の話してたにゃ?」

「・・・。」

 

 

「ミスターLノワール伯爵と一緒に何をしていたのにゃ?」伯爵は帽子に手を当てながら答えた。

「世界を滅ぼした後、理想の世界を自分たちで新たに創造する。それがヨの望み・・・。」

「元の世界に住んでいた人はどうなるにゃ?」

「みな、新しき世界の礎となるでワ~ル。」

なんという・・・。

アタシは世界を壊そうとしている集団の一人に拾われたってことにゃ?

「『闇の一族』を抜け出してきたお前ならわかるだろう。この世界がどんなに不当で差別に満ちているか」

「なんでアタシが『闇の一族』だってことを知ってるにゃ!」

「ヨが『闇の一族』からだ!!」

その一言で息がつまった。アタシと同じく、一族を抜けた人がいた。

まさか・・・!

「ワタシの見てきた世界は残酷で、救いようのないものだった。この世の全てが無意味だ。価値のあるモノなど一つもない。ヨにはそんな世界が我慢ならぬ。だから全てを滅ぼす。全てを浄化するのでワ~ル。」

「アタシは・・・」

この世が無価値?何も生まない?

ちがう!!

「・・・。」

「ミスターLに会えたにゃ。会えて・・・幸せだった。あなたにとって何もにゃい世界でもアタシにとっては・・・だから・・・ここであなたを倒すにゃ。それがたとえ、ミスターLを裏切る行為だとしても!」

「よかろう・・・まだ真の絶望を知らぬ無知な子供よ。ヨが相手になるでワ~ル。」

ノワール伯爵はミスターLの倉庫へと消えていった。

 

10

 

アタシは倉庫に着くなり目の前のノワール伯爵に飛びかかる。かつておもちゃに襲いかかったように。しかし、伯爵は軽く体をひねって攻撃をかわした。

「たとえ一時の愛が幸福を呼んだとしても、それを引き裂かれる絶望にかわるだけでワ~ル。たとえ愛の契りを交わしても、いつかは裏切られるのでワ~ル。」

ノワール伯爵が杖を掲げた。その先端に強力な重力が発生する。アタシは攻撃のために伯爵の至近距離にいた。それがあだとなり、その重力に取り込まれてしまった。重力から解放されるとともに全身に強い衝撃を浴びる。一撃でアタシは両膝を地に着いた。

「その程度でワ~ルか?そんな弱い思いでは何もいいものは生み出さない。生み出されるのは不幸と絶望だけでワ~ル。中途半端な覚悟では『闇の一族』という呪われた宿命には逆らえない。悔しければ立つのでワ~ル。ワルワルワルワルワル・・・。」

「にゃ・・・あ。」

 

立て!アタシは彼に会いたくないの?

アタシは・・・!アタシは!!!

 

会って想いを伝えたい!

 

「なるほど。少しはやるのでワ~ルな・・・。」

ノワール伯爵はフラフラと立ち上がったアタシの瞳の奥をじっと見つめていた。

「にゃあああ!」

すかさず連続攻撃を仕掛ける。ノワール伯爵をひっかこうと何度も研いだ爪を振る。

しかし、伯爵は摩擦を無視したかのように後ろに移動、攻撃をかわす。アタシの爪は残像を切っただけだった。

「ヨと同じ『闇の一族』ならば、闇の力を使ってもっとマシな戦いができるはずでワ~ル。なぜそうしない?」

「アタシは闇の力になんか頼らないにゃ!そんにゃのなくたって!」

親から嫌々覚えさせられた技。そんな技を使って勝ってもうれしくとも何ともにゃい。アタシは過去を捨てた。猫に生まれ変わったときからにゃ!

「悪の力なんかに頼りたくないにゃ!」

「それは言いがかりでワ~ル。闇の力の本質は邪悪にあらず。使うものが善か悪かを決めるのでワ~ル。もともと力そのものに意思などない。闇自体には何の罪もないのだ。それを行使する者が問題なのでワ~ル。」

アタシは相手の言葉には耳を貸さず、ひたすら獲物を追い続ける。それに対し伯爵はアタシの攻撃を流れるように避けていった。横に、前に、後ろに。全く攻撃が当たらにゃい。

「お前は闇の血族だ。」

「違う!アタシは生まれ変わった!」

「違わぬ!」

「!!」

「過去をどんなに否定しようが、過去を消すことは出来ぬ。お前は過去を捨てたと言って、実は過去にとらわれているのではないか?過去から逃げているのではないか?過去を認めなければ前には進めぬ。認めなければならぬ。『闇の一族』であるということを。

その上でどういう道を歩むか。それを決めるのはお前次第でワ~ル。」

なんでだろう。伯爵の言葉がアタシの胸に響く。自分に・・・嘘を・・・?

「過去を見て見ぬふりをし、のたれ死ぬか。それとも過去を認め、その上で力を正しい方向に向けるか。さあ、選ぶのでワ~ル。」

 

過去から目をそむけるか。過去を認めるのか。

 

「力を・・・にゃにに使うか!!」

体がメキッメキッと妙な音を放った。全身の筋肉や骨で何か変化が起きた。外見的には変わらないが、確かに何かが変わった。アタシは背中を大きく曲げ前に腕をだらりと倒した。

闇の衣を身にまとい、雹のペルソナで顔を隠す。全身黒衣に包まれ、その中でギラリと輝く爪。怪しい光を放つ瞳。

アタシは今までとはまるで違う、すさまじい速度で伯爵との間合いを詰めた。あまりの速さにノワール伯爵は目を見開く。

アタシは無防備な伯爵を何度も切りつけた。猛獣のように引きしまった腕で、相手を傷つけてゆく。腕を振るたびに風が音色を奏でる。爪の軌道は何重にも重なって目に焼きついた。

「・・・それでよのでワ~ル。それだけの力があれば、大切なものを守ることも、逆に奪うこともできるだろう。」

四肢を床につけ、ばねのように全身を行使し、ライオンのように獲物の喉を狙った。

「にゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

しかし、その攻撃はすんでのところで魔法のベールに阻まれてしまった。

「危うく首を食われるところだった。さすがでワ~ル。」

あのベールの守りは固い。薄く見えても引き裂くのは困難と判断した。両手にはいつの間にか親からもらった武器が握られていた。そのまま純白の銃、『白猫』を流れるような動作で相手に向ける。

そして、引き金を引いた。

闇の魔術で作られた弾丸は魔法の盾を貫き、伯爵の胸を射抜いた・・・はずだった。

「なるほど。魔法も物理もお手の物か。さすがはミスターLが認めた猫でワ~ルな。もし、ヨにこの究極の加護が存在しなければ負けていたかもしれぬ。」

アタシの弾をはじいた盾。

それは世界を破滅させる力。混沌そのものだった。

「混沌の力・・・古代の民の古文書に書いてあった・・・力・・・。」

それはどんな魔法も、どんな兵器もたちまち無力と化す。その力は世界を滅ぼす。時空を引き裂き、その裂け目の中へ全てが消える。

「『コントンのラブパワー』。これがヨの力。この力を使い、世界を滅ぼすのでワ~ル。」

どこか、『世界を滅ぼす』という言葉には疑惑が付きまとった。そんなことできるはずがない、と。しかし、目の前に存在している力はそれを可能にするには十分すぎる物だった。闘争心が解かれ、アタシは地面にしりもちをついた。

力が、出にゃい。立ち上がることすらできなにゃい。ここまでかにゃあ・・・。

「・・・命までは取らぬ。向こうの奥の扉に試作品、『プロトエルガンダー』がある。それに乗って脱出するのだ。『プロトエルガンダー』には空間を超える力がある。キノコ王国を目指せ。そうすれば・・・お前の望むモノが手に入るだろう。」

「見逃す?にゃぜ?」

「ミスターLの望みだ。」

「にゃぁ!」

「早く行け。この城ももうじき消える。」

伯爵は魔法を唱え、アタシを目的の扉の前まで転送した。最後まで、彼はアタシのことを気遣ってくれた。飼い主合格。

今度会ったら、なんて言おう。今まで伝えられなかったこと。全部言っちゃおっかにゃん。

アタシは振り向いて伯爵の瞳を見た。不安と寂しさと後悔が入り混じった複雑な光を放っていた。少なくとも世界の破滅を望むような眼には見えなかった。

「どんなことがあろうと・・・希望を捨てるな!」

アタシは伯爵に背を向けて扉の奥へと走った。

・・・アタシはやっぱり信じられなかった。あんな人が世界を壊せるはずがにゃい。

 

むしろ・・・。

 

11

 

プロトエルガンダー。

見た目はエルガンダーとそんなに変わらないように見える。しかし、塗装がしていない。アタシが近づくと自動で浮上した。首下にリフトが見えた。アタシは固い決意でこのロボットに乗った。

このロボットの『ブラザー』を必ず見つけ出す!

 

目的地:キノコ王国

 

モニターにそう打ち込んだだけでよかった。中は割と広々していて、ロボットの両目の部分から外が一望できた。とはいえ、見える光景は倉庫の壁だけだが。

全てタッチパネル式になっていて、ナビゲートに沿って大まかな命令を選択すれば動いてくれえる。なんとも搭乗者に優しいロボットだ。他の人が使うこともちゃんと考えていたらしい。

優しかったにゃあ・・・。

ロボットの首元の隔壁が閉じられ、あちこちでガシャン、ガシャン、と金属がかみ合う音が聞こえた。同時にパネルに文字が表示された。

 

『目的地はキノコ王国でよろしいですね』

 

パネルに表示された『はい』のボタンを押した。もうこれで後戻りはできにゃい。

 

『出発します』

 

轟音とともにアタシを乗せたプロトエルガンダーは異空間へと突入した。

 

 

 

どれほど時間が経っただろうか。長かったようにも短かったようにも感じる。途中、記憶が失われていた。

 

『目的地に到着。キノコ王国、キノコタウン付近の森林。ステルスモードオン。着陸します。』

 

アタシは念のために銃を取り出し、弾を詰める。この銃、『白猫』は魔力を利用した銃だ。圧縮した魔力を打ち出すために威力はすさまじい。その代わりに銃に魔力を詰めるとき、大量の魔力を限界まで圧縮して詰め込まなきゃいけない。そのために、弾を込めるのに時間がかかる。弾が入る量は一丁につき四発。回転式の銃だ。

・・・はぁ。親から離れても、こんな癖が・・・。

 

 

 

急に眩しい光が降り注いだ。アタシは銃から目をそむけて前を向いた。

すごい光・・・。ここがキノコ王国。きれいなところ。

目の前に広がる緑。広大な森林はアタシを圧倒した。アタシは機械から降りて、肉眼で見る。やっぱりきれい。

風で木が揺れる音、動物の鳴き声、それらが絶妙なハーモニーを奏でていた。

にゃあ!!ネームプレートが!!首元を急いで確認した。淡く、でも確実に輝いていた。近くに彼がいる!

アタシは光が強くなる方向を見つけ出し、それにしたがって歩を進めた。

 

胸が高鳴る。

緊張して手が震える。

気持ちが抑えられにゃい。

導きの光はさらに明るさを増す。

 

まだ?

まだなの?

 

心臓の鼓動が全身を打つ。

アタシ達の友情の証がさらに光を増す!

すぐそばにいる!!!

早く出てきて!

 

 

 

ああっ・・・ようやく会えた。この姿じゃ、わからないのも当然にゃ。

ちょっとさびしい。

でも、アタシは知ってる。

たとえ互いの姿かたちが変わろうが、記憶がなくなろうが、アタシ達はつながっている。この首輪で・・・にゃ。

 

 

 

アタシはここにいるよ・・・。

 

 

 

アタシの名前はルーニャ。

 

飼い主はミスターL

 

世界の隔たりを超えて奇跡的にであった、一人と一匹。

 

アタシは願う。

 

この絆が決して変わらぬことを。