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フールの鉛筆画ブログ

鉛筆画のイラストや絵を中心に描いています。黒髪が大好きです。時々短編小説も書きます。

月下香 ~白い花園~ 上

少女と僕

 

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黒い美しい髪を持つ少女だった。幼さと妖艶さが素晴らしい調和を生み出していている。

「隣に引っ越してきたルビー・アマリリスです。__さん、今後はよろしくお願いします」

純粋で真っ直ぐな紅の瞳が僕の淀んだ目を見つめている。毒矢に打たれたようにめまいがした。

「大丈夫ですか?」

僕は少女の問いに対し、「ええ、大丈夫です。こちらこそお願いします」と答えた。この一連の流れだけでも僕の精神は恐ろしいほど疲弊していた。

お互い敬語は使わないということを話し合った後、少女は「ところで、読書は好き?」と聞いてきた。僕はいきなり自分の核心を突かれて酷く混乱した。

「どうして分かったの?」

「家の奥にある棚、全部本棚でしょ。お勧めの本とかある?」

こんなことにも気付かないとは。僕はもう、何を考えても無駄なようだ。思考は空転どころかビッグバンでも起きたかのように収集がつかない。もはやまともな対応すらできなくなっていた。

「あ、え、う~ん、少し待っていて、ルビー、すぐ探してくる」

「えっ、そこまでしなくてもいいよ?」

僕は少女の言葉を無視して本棚に向かった。頭をぶんぶん回して目的に沿う本を探す。あった、あった。

「ぜぃ、はぁ、この本でいいかい?」

全力で探した一冊を両手で差しだした。その時、小さい掌が僕の指に優しく触れる。爪先まで手入れが届いている、バイオリンの弦のように洗礼された指だ。僕は思わずその本が少女の手に渡る様子を凝視してしまった。

再び少女に目を合わすと、彼女はしらゆりのような笑みを浮かべていた。

「ありがとう、必ず返しに来るね」

「ルビー、返さなくてもいいよ?」

少女が首を横に振る。同時に麗しい髪の毛がふわっと宙に舞う。

「ん~ん。必ず返しに来るよ。ありがとう__」

少女が玄関から去った後も僕の頭は彼女のことでいっぱいだった。目をつぶろうが、寝ようとしようが、本を読もうが、何をしようが、頭から離れない。僕はこの情動の正体が全くと言っていいほど掴めなかった。まるで鎖に繋がれたケダモノのような感情だ。それが僕の心の中で鎖を断ち切らんと叫び声をあげて暴れ狂っている。

僕は何をすればよいのか分からず、ケダモノの前で呆然と立ち尽くしていた。

 

後ろから声をかけられた

 

つぎの日、会社の帰り、家に向かって歩いている途中に何者かに声をかけられた。

「久しぶりね。__、どう、お仕事順調?」

茶髪のショートヘアーを揺らして、ひまわりのように僕に話しかけてきた。

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「本当にルーニャなの!仕事は順調だよ!いやぁ、最後に会ったのいつだっけ?」

僕の数少ない本当の意味での理解者。彼女、ルーニャは普通の耳のほかに猫耳をはやしていて、事あるごとにぴくぴく動く。まあ、どうでもいいことだけど。

「ざっと3年ぶりくらいかな?お互い立派になっちゃったよねっ。この間まで学生だったのに、__先輩」

「もう先輩はやめろよ。いまじゃルーニャの方が出世してるのに」

猫娘はにゃはっ、っと特徴的な笑い声を発した。その明るい笑顔に僕は何度助けられたのかわからない。心が折れそうになるたびに彼女から元気をもらっているような気がする。天真爛漫で、無邪気で、すなお・・・。

「そんなの関係ない。先輩は先輩」

「いつまで学生気分なんだか」

ルーニャと話していると自然と落ち着く。家の中にいるような感じと言えばいいかもしれない。不思議な安心感。

「__、最近変わったことあった?」

この言葉を聞いたとき反射的にあの、黒髪の少女を思い出た。

「ああ、そういえば隣に可愛い子が引っ越してきたなァ・・・」

「にゃ・・・っ?」

「名前は確か、ルビーだっけ。黒髪が特徴的で・・・」

「もしかしてルビー・アマリリスって名前?」

僕は少々大げさに驚いた。

「そうだよ。もしかして知り合い?」

「うん。毎日いっしょにお弁当食べてたよ。ルビーちゃん、会いたいな~。今度、三人でお食事でもどう?」

「僕も混ぜてくれるの!え、本当にいいの?正直、すごくうれしい!!」

美少女二人に囲まれての食事!彼女は僕の言葉に満足したようで、煌めく笑いを僕にくれた。

「ところで」とルーニャが急に話を変えた。

「アタシ、何か変わったところとかある?特に良くなったところ。」

「なんで今?」

「いいから、教えてほしいにゃん」

独特ななまりとともにルーニャは僕に詰め寄ってきた。友達を面と向かってほめることは普段あまりなかったので、初めこそ戸惑ったけれど、

フリージアって家名の通り、純粋なところがいいよな・・・。あと笑顔。ルーニャが笑ってくれるとすごくうれしい。それから・・・」

調子に乗ってくるとつぎからつぎへと言葉があふれてきた。ルーニャは普段輪見せないふわっとした微笑を浮かべて僕の言葉に聞き入っていた。

僕が言葉を切ると恍惚としたルーニャがお礼を言ってきた。

「ありがとう。少し、自信がついた」

 

家の前に誰かがいた

 

結構遅くなってしまった。早歩きで家を目指した僕を何者かが家の前で待っていた。

「こんばんは、__。この前借りた本、返しに来たよ」

黒いあでやかな髪が夜闇に揺れる。僕はドキッとして挨拶を返した。

「あっ、ありがとう、返さなくてもよかったのに、それから本、読むの早いね」

僕は緊張のあまり、濁流のごとく言葉を少女に浴びせてしまった。もちろん、待っていた人はルビー。僕の言葉に照れくさそうに笑った。その仕草がこれまた麗しい。さらに僕は緊張してしまう。

「フフフッ・・・、どういたしまして。私、読書は好きだから」

僕は今しがた会っていた友人のことも食事のことも忘れて、彼女との会話に没頭した。心の中のケダモノがまた暴れ始める。どうにかして彼女を楽しませなければ、という半ば脅迫めいた命令が頭の中に響いた。

「読書はいいよね。わくわくドキドキしたり、哀しくなったり、楽しかったり」

「シンデレラにも、白馬の王子様にもなれる、だよね」

「そうそう!」

僕は彼女と気が合うことに歓喜した。それはもう、途方もない喜び。僕は調子に乗ってこんな言葉を吐いてしまう。

「本は僕に夢と希望を与えてくれる。それに、本のおかげでルビー、君と仲良くなれた。」

しまった、余計な言葉だった、なんてことを言ってしまったのだろう、小説の人物みたいにきざなセリフじゃあないか、ああ、僕はバカだバカだ、せっかくうまくいってたのに、今絶対にルビーに気持ち悪がられた・・・頭の中で僕の後悔が渦を巻く。

「あ、今のは、変なこと言って、ごめん」

フォローしようと思っても墓穴を掘るような言葉しか出てこない、どうしよう僕はもう終わりだ・・・、そう思った時だった。

「私もそう思ってた。これって以心伝心、っていうのかな?」

意外なほど、ルビーはすんなりと僕の言葉を受け入れた。僕は拍子抜けして、とりあえず安堵した。そしてさらに興奮した。

「本当!そんなこと実際にあるとは思わなかった」

「私も初めてだよ。私達、よっぽど気が合うみたい」

僕はルビーの言葉が嘘偽りでないのを祈りながら「うん、そうだね」と静かに答えた。突然思い出したようにルビーがポケットから何かを取り出しました。

「これ・・・気にいれば」

そう言って僕の手に彼女が握らせたのは一本の花だった。きれいな白い花。

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「月下香(げっかこう)』っていう名前の花なんだって。きれいでしょ。お花屋さんで見て衝動買いしちゃった」

名前通り月に照らされた花は、白く淡く輝いてこの世のものとは思えなかった。

 

三人でお茶した

 

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 「えへへ。__、ルビーちゃん、今日は付き合ってもらっちゃってごめんにゃあ」

「__がもっと早く言ってくれればプレゼントとか準備できたのに」

とルビーが睨んできた。怒っているルビーもなかなかいいなと思う。美人は怒っても美人。

「その件についてはすいません」

今しがた注文したコーヒーを口につけながら答えた。熱っ!僕が熱がる様子を笑いながらルビーが口を開いた。

「それにしてもこの三人でお茶するとは思わなかった」

うん。美少女二人と平凡な社会人代表がお茶するなんて普通考えらんないよね。

「そういえば__、ルビーちゃんのことあまりよく知らないにゃ?色々教えてあげるよ。おもに恥ずかしいこと中心に」

「え!何それ聞きたい」

その言葉を聞いてルビーの顔がみるみる赤くなっていった。

「ちょっちょとまってよ!なんでそうなるのっ!」

慌てるルビーもいいなぁ~。

この後、ルーニャによってルビーの衝撃の過去が暴露された。

「え、じゃあその間一年くらい、二股かけてたの!」

「アタシにはとても無理」

「いやっ、やめてよ!まだ私も子供だったんだからっ!」

「ちょっ、子供のすることでもないだろ!」

その間、僕は他のお客さんに迷惑がかからないように笑いをこらえるので必死だった。まあ、無理だったけど。

「あわわわわっ」

「それでさ、ルビーちゃんがにゃあ~、」

「ダメダメダメ!それはダメ!」

「はははっ!!それでそれで?」

久しぶりにこんなに大笑いしたような気がする。二人とも表情豊かで、純粋で。隣にいるだけで楽しい。こういう小さな幸せが続くような生活、うん、いいね。親友であり恋人でない微妙な間柄が一番楽しいんだよなぁ。まさしく夢心地。

そんなこんなで僕たちはひとしきり声を響かせた後、お店の人から注意を受けて三人で頭を下げた。

正午を過ぎたあたり、ルビーは用事があるからといって先に帰ってしまった。

「もう少し早く__が知らせてくれれば後に予定なんか入れなかったのに・・・」

やめて。その顔怖い。

「本当にごめんなさい、ルビー様」

「にゃははははっ!完全にてなづけられているにゃ~!!」

ルーニャ他のお客さんが見てるから!ほんと恥ずかしいからやめて!僕の醜態が公共の場にお披露目される!

散々、僕のことをいじり倒した後、ルビーは今にもスキップしそうなくらいご機嫌でお店を出て行った。取り残された僕たちはそのままではいろんな意味で気まずかったので、別の店で再びお茶をすることにした。

 

さっきとは別のカフェで

 

「いやぁ~、楽しかったにゃ~」

ルーニャは僕が明るい話をすると笑ってくれるし、暗い話をするといっしょに悲しい顔をしてくれる。彼女は自分のことのように僕を受け止めてくれる。表情豊かで純粋で・・・僕はまるで恋しているみたいだなぁ。あれ、僕はこの前ルビーにドキドキしていなかったか?

っと色々考えているうちに過去の打ち明け話が終わっていた。やべ、最後の方聞いてなかった。

「お互いやっぱり苦労しているんだな」

「楽あれば苦ありなんだねっ。あ、そうそう、これ」

チケット?

「実は遊園地のチケットを友達と買ったんだけど、友達がいけなくなっちゃって。代わりにいっしょに行かない?男女ペアのチケットだからルビーちゃんは誘えないんだけど・・・」

おお、これは朗報!

「行く行く!!えっいいの?もらっちゃって?」

「アタシと__の中じゃない。ちょっとルビーちゃんには悪いけど、これぐらいして当然!さっ、早く予定立てましょ!」

「ははっ、まるで恋人みたいだ。」

僕はしゃれのつもりで言ったのに、ルーニャは「うん、そう・・・にゃ」っと顔を伏せてしまった。

「すまんすまん、冗談に聞こえなかった?」

「・・・そうだった、の」

声が少し上ずっている。軽い気持ちで口走るべきじゃなかった。ルーニャは今の言葉を本気にしたのか。

とりあえず「本当にごめんな。」と謝った。でもルーニャの声はどんどんか細くなっていく。猫耳が目に見えてしおれていった。

「いいの。アタシが勝手に思い込んでた、そう、思い込んでただけ・・・だか・・・ら・・・。」

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すごくさびしそうな顔だ。何かそんなに落ち込むようなこと、僕、言ったっけ?う~ん、思い当たらない。

僕がルーニャに目を向けると、彼女はすぅっと息を吸い込んだ。何か重大ことでも言うのか?

「・・・振られたの、彼氏に」

「え゛!」

衝撃だった。そして自分の罪の重さを理解した。僕はルーニャの心の傷口を抉って塩をすりこんだってことか!

「理由は自分でもわからない。でも、ダメだって言われた」

申し訳なくて、声が、出ない。

「彼もアタシを愛している、そう、思い込ん・・・」

その時、テーブルに一滴のしずくが音もなく沈んだ。そうか、だからこの前、『自分をほめて』なんて言ったのか。じゃあ、今日のペアチケットも・・・。

「ごめん、こんな話しちゃって。もう大丈夫。その代わり今日はおごりね!」

そういうことかー!もしかして僕、はめられた?

「ウェイターさん、デラックスパフェ追加で!」

財布、もつかな?

「ああ、そうそう、アレ、嘘泣きっ。」

ルーニャさん、ついていけません。

 

突然の電話

 

朝、突然のコール。僕は有線の電話に手をかけた。

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「もしもし?」

「よう__、久しぶりだな」

この声を聞いたのは何年前だっただろう。

「赤崎!うぉっ!いきなり驚いたぞ」

最近はやたらと親友からお声がかかるな~。僕は「高校時代から少しは変わったか?まだ恋愛沙汰でとらぶってんのか?」とちゃかす。

「そこは突っ込まないでくれ、__。最近も色々あった」

と半ばため息交じりに答えた。

「相変わらずか。恐ろしいほど八方美人で成績も優秀なお前がなんで恋愛ができないんだか」

「友達づきあいと恋は別だ」

友人が全く変わっていないことに半ば喜び、半ばがっかりした。その癖直そうよ、ほんとに。

「ところで、どうして僕に電話なんかよこしたんだ?とっくに忘れられてると思ってけど。」

「馬鹿言え、誰が生涯の恩人のことを忘れるか。」

僕の皮肉にもめげず、赤崎は話を続けた。

「本題に入るぞ。最近、ルビーって女の子がそっちに来なかったか?」

ルビー!まさかこんな所でその名前を聞くとは。驚きの声を上げる。

「知り合いだったのか?」

世間って案外狭いな。

「ああ、可愛い上に性格もいいから大事にしろよ。またとないチャンスだ」

「わかってる。お前の二の舞にならないように気を付けるよ。・・・っていうか、付き合う前提で話を進めるなよぉ」

お互いに笑いあう。僕は過去に愛憎劇の末の失敗例をいやというほど見てきた。被害者も加害者も主に赤崎だけど。

「わざわざ警告してくれてありがとう」

「__、例には及ばないぞ。少しでも恩返しがしたかったからな。困ったことがあったら相談してくれよ。ちょっとこの後用事があるから、すまん、切るぞ」

「忙しいところありがとう、赤崎。またな」

かけがえのない親友との会話を終え僕は電話を切った。よっぽど切羽詰まっているらしい。そんな状況で僕に電話をかけてくれた。赤崎、相変わらず他人想いだ。

僕もルーニャやルビーと電話したりして、連絡を取り合った方がいいのかなあ。

 

いつものようにインターホンが鳴った

 

「おはよう__!また本貸して!」

「いいよ。どれ持ってく?」

僕とルビーのこの挨拶はもはや日常と化していた。

僕はごそごそと部屋に潜って、面白そうな本を探す。お、これいいかも。

「はい、どうぞ。『希望の宝石』」

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「えへへ。__、いつもありがとう」

ルビーが照れくさそうに笑った。僕の心臓は平常通り跳ねまわっていた。

「いや、こちらこそありがとう。僕の進めた本を読んでくれて」

「__の進めてくれる本は面白いものばっかりだから。私、大好きだよ」

大好き、という言葉に反応してしまった自分が情けない。うう、ルビーはさりげなく心に訴えるような言葉を混ぜてくるなあ。

「あ、うん、僕も・・・」と言いかけてハッとした。これでルーニャの時失敗したんじゃないか。

「僕も本は好きだからね。」少女がぽかんとしていた。あ、慌てるあまり意味不明な返答をしちゃった。

「あ、ごめん、今の気にしないで!間違った!」

おどおどする僕に対し、ルビーは顎を引いて頬笑みをたたえ、「誰にだって間違えはあるから、謝らないで。__は何も悪いことはしてないから。」と囁いた。

僕は思わずたじろいでしまった。瞳があまりに魅惑的で妖艶だったから。

「う、うん。ごめ・・・」言いかけた瞬間、胸のあたりを指で小突かれた。「だめって言ったでしょ。」言葉に詰まる。男の人に平然とするようなことじゃないだろう。

注意しようと口を開けるけど、目の前のルビーにも届かないような小さな叫びしか出なかった。どうにか指をそっと払いのけて心を落ち着かせる。

「わっワカリマシタ!」

たどたどしくそういうとルビーは「おもしろい!フフッ!」っと笑顔をきらめかせた。ああ、癒される。

「それじゃあ、仕事、頑張ってね」

パタパタとかけていく少女を僕は見守った。あ、そうだ。

「そう言えばこの間、ルーニャとカフェに行った時の途中で抜けた理由って、何だったの?」

ルビーはビクッっと驚いた様子で僕に振り向いた。

「へ!?あっああ、あの時はちょっと友達と会ってきたの。」

あ~なごむ。

「ありがとう。引きとめちゃってごめん。」

ルビーは「だーかーら、謝らなくてもいいっていってるでしょ~。」っと僕に頬笑みを投げかけると去っていった。こういう青年誌的なことって、実際にあるのか。

僕は窓辺の月下香に目を向ける。植木鉢に花開く姿をルビーに重ねた。