ヒゲと猫と二つの王国 2-4
ルーニャが≪ファイアーエレメント≫によって体内を焼かれ、膝をついた。
炎属性中級魔法。一応、わたしの≪フラーマ≫とほぼ同格といっていい魔法。
わたしは思わずつぶやいた。
「中級魔法でここまで・・・。」
「一応、ルイージは強さでいえばギルド内で二番目だからね。
怒らせると怖いぞ~。」
マステラさんの言葉を聞いて、わたしはこの戦いの勝敗がなんとなく見えたような気がした。フラワーパーワーとマジックパワー。二つの力を同時に操れるのはそれだけで『事件』を起こし、人々を困惑させるのには十分な力。つまり、かつてドンペリが操ったのとほぼ同じといってよかった。
向こうのルイージがギルド内二番目の強さであるなら、こちらのルイージは猫の手一般戦闘員程度の強さ。差は歴然としている。そこに本来なら非戦闘員であるはずの猫が紛れ込んだところで結果はわかりきっていた。
誤爆と無意味な攻撃を繰り返す、社長と緑。
「がっ。」
「にゃ・・・。」
二人の小さな断末魔が聞こえた。
でも、実はここからなのだ。ルイージのとりえである粘り強さと強靭な精神力は危機的状況で最大限に発揮される。倒れたまんまのルーニャはともかくとして。
「あれだけ≪テンペスト≫を受けたのに!」
「僕は・・・打たれ強いんだ!」
痛めつけられるたびに相手の攻撃を読む。ルーニャは前半の時間稼ぎでしかない。
相手の≪ファイアーエレメント≫を喰らいながら彼は≪鉄斬光≫を放つ。
彼の『奥の手』に、向こうのルイージは不意を突かれた。
突然の目の前に敵が現れたことで体が委縮してしまっている。
距離ゼロ。
≪ファイアージャンプパンチ≫
彼の最大の攻撃が緑のPにヒットする。思わず相手は顔をゆがめた。突然の出来事にマステラさんも目を見張っている。
彼は流れる様な動作で着地からバク天を決めて、距離ととった。
「瞬間移動でもしたのか!?」
「そんなところさ。」
彼は両腕を大きく回した。そして両腰に引く。大技に備えて向こうのルイージも何か魔法を詠唱し始めた。しかし、
≪鉄斬光≫
驚異的な速さで彼があちらのルイージの背をとった。
至近距離だ。
「君の方が、力は強いんだけどね。」
≪ルイージファイナル≫
紅蓮の炎がもう一人のルイージを包んだ。至近距離であの攻撃を受けるのは相当厳しいだろう。でも、ルイージ、あなたは誰を相手にしているのか忘れていたみたいね。
「・・・終わったね。」
マステラも分かっていたらしく、
「スピネルちゃんもそう思う?」
一番致命的なのは炎の魔法を操る相手に炎の攻撃で攻撃してしまったこと。火を避けるための魔法なんてざらにあるからだ。火を操るのは魔法の初歩の初歩。
「僕も・・・撃たれ強いんだ。
≪ファイアーボール≫≪ファイアーエレメント≫からの≪テンペスト≫!!」
攻撃の直後でガードが間に合わなかった。
彼は自分の攻撃以上の大反撃を受け、崩れ落ちた。
マステラがそれを見て叫んだ。
「ルイージ!ルーニャがいない!」
向こうのルイージは見えない敵を警戒して身構えた。