風上、再び 結 合作小説
名付け親。
それが意味するところは義理の親。
またはその子に対して親に次ぐ責任を受け持つ、
つまりその子の本当の親が死んだときに責任を持って面倒をみるということ。
この子はそれを意識して私に頼んだのだろうか・・・
風から連想される言葉。
私が思いついたのは花だ。
風に揺られる花。
私は思考をめぐらした。
風。
八月。
可憐。
そして、約束。
私のばらばらな構想は一つの花に集束していった。
「シエラ・ウィンデ。」
「それが・・・私の名前?」
「気にいれば・・・だが。」
自信ははっきり言ってない。人の子を名付けるなんてことはしたことがない。
ましてや私は芸術家などではなく、ただの一般人だ。
少女は興味深そうに聞いてきた。
「・・・意味は?」
「異国の言葉『sierwinde』からとった。これを英語読みすると「シエラウィンデ」になる。この言葉が意味するのは『あさがお』だ。ちょうどこの時期に咲く絢爛な花だ。」
「じゃあ、花ことばは?」
「『固い約束』。」
その時、少女が少なからず驚いたのを私の目は捉えた。
「シエラ・ウィンデ・・・。」
風を操る彼女の髪がふわっと揺れた。
心地よい風が私の肌をなでる。
この風。とりあえず、気に触れずに済んだようだ。
「sier『wind』e・・・。風・・・。」
長い時間が経ったような気がする。
名前を持たない人にとって、自分の『名前』というものを認識するのはとても大変な作業だと私は思う。一生ついて回る、体の一部のようなものだからだ。
もしも自分にいきなり手がもう一本生えてきたら、大半の人は動揺することだろう。
それと同じように『名前』というものもまた、いきなり名付けられて受け入れられるものではない。途方もない年月をかけて体になじんで行くものだ。
少女は・・・。
「シエラ・ウィンデ・・・いい名前・・・。
セキリュウ、あなた詩人だね♪」
「詩人?私はただ言葉を無造作にくっつけただけだよ。」
照れているのだ。
だからこんなしょうもないことしか言えないのだ。
私らしくないな。
「ありがとう♪」
「喜んでいただけて光栄だよ・・・シエラ。」
よかった・・・。
私は心底安心していた。
自身がなかったからだ。
あと、他に何も思い浮かばなかった、というのもある。
今回もやはり雑談をした。とうとう私は素をさらけ出した、いや、さらけ出さなければならなかった。シエラの名付け親になったからには・・・。彼女にこたえなければならない。
最後に私はそれまで少女に感じていたことを口にした。
「いくら人から裏切られても・・・傷つけられても・・・人を信じる心は忘れないことだ。
私のように疑り深くなってはいけない。覚えておきなさい。」
少女はいきなり切り出された話に戸惑っている様子だ。
まあ、いきなりこんなまじめな話をしても困るだけだろう。
・・・どうしても伝えたかった。
私は意図的に話題を変えた。
「もうそろそろ夕暮だ。」
「・・・そうだね♪いい風、いる?」
「ああ、頼む。」
暁色の日光が雲に反射して幻想的な光景を織りなしていた。
街並みの向こうに太陽が見える。
私は、今しがた名前のついた少女と一緒に、風に揺られながらその光景を見つめていた。
夕方に咲く「あさがお」も風流だとは思わないか?