ルイージの小説 30 後編 第七章 宝石がために鐘はなる
キノコタウンはもはや異郷の地と化していた。
土管から飛び出したわたしたちが見たのは
足の無いキノピオ達やテレサが町中で
すごく楽しそうに乱舞している様子だった。
「ピーチ姫のアイデアだ。
混乱を防ぐために皆にパーティをしようと持ちかけたのだ。
『こんな姿になれるのは今だけだから』
と、皆を説得してな。」
隣に立っている彼の表情が剥製のように固まっている。
下半身が小刻みに震えていた。
「さっささ、先に『猫の手』に行ってるよ!」
彼はこらえきれずに半分涙目で走り去った。
「ルイージはよほど皆が心配なようだ。
救いたい気持ちも分かるがあれでは冷静に事を判断できない。
落ち着かせてやらないと。
急がば回れだ。
スピネル、覚えておくといい。」
セキリュウは彼のお化け嫌いに気付いていない。
竜族には霊体を恐れると言う文化そのものがないらしい。
昔、おとうさんから聞いた。
「・・・後を追いましょう。」
わたしたちも彼を追いかけ「猫の手」へと向かった。
どこからともなく鐘の音がわたしたちを追っていった。
まるで、お化けになることを誘っているこのように。
「いらっしゃ~い。」
ルーニャがいつも通り挨拶してきた。
その姿を見るにルーニャは難を逃れたらしい。
「そちらの大きい御方は誰にゃ?」
勤務時間でもないのにタキシードを着こなしている男は一礼し、
「はじめまして。
わたしの名前はセキリュウ。
スピネルの召使です。」
ルーニャは納得したがわたしは納得しなかった。
「・・・おとうさんの友達のセキリュウよ。」
わたしの紹介にセキリュウが一瞬困ったような顔をした。
「要するに教育係にゃん?」
ルーニャの的を得た発言にわたしもセキリュウも頷く。
また鐘の音。
「とりあえず、今どういった状況なのか知りたいのだが。
その様子だと時間には猶予が有るようだが?」
セキリュウがルーニャを遠まわしにせかした。
一刻も早くこの状況を打開したいらしい。
恐らくわたしたちともっと話がしたいとか、
遊びたいとか、そう言った小さな願いの為に。
「わかったにゃ。
三階へ案にゃいするにゃ。」
食堂のある三階には同僚がお化け姿で待機していた。
平生の姿をしているのは数人しかいない。
「・・・ルイージ!」
壁に眼を閉じ一人寄り掛かっている彼にわたしは声を投げかける。
はたから見ると楽園に見えていた場所が、近くでみると実は地獄だった、
と落胆しているようだった。
「スピネル、
お化けってどうしたら怖くなくなるのかな?」
「体を持つか持たざるか、それだけの違いでござろう。」
問いかけに答えたのはわたしでは無かった。
赤い道着に身を包んだ老人だった。
彼はその声を聞くと眼を見開き、直角に体を曲げ老人に礼をした。
誰なんだろう、この人。
「お久しぶりです。シショー。」
「・・・ルイージの師匠!」
わたしも頭を下げる。
恐らくわたしが到底行きつかない領域に踏み込んでいる人なのだろう。
力も精神も。
「ゴホッ・・・ゴホッ。
二人とも顔を上げなさい。
久方ぶりの出逢いに感動したい所でござるが、正面をごらんなさい。」
そう言われて前を見ると、
ルーニャが配膳用カウンターの前で今にも演説を始めようとしていた。
ルイージの小説
To Be Continued