ルイージの小説 21 前編 第五章 激闘の宝石
ドッスンボルケーノ最深部。
僕たちは出入り口と思われるトンネルの奥を覗く。
一言で言えば大規模な円形劇場のようだった。
岩盤でできた舞台に溶岩の客席。
舞台に続く一本の道が、トンネルの真正面に伸びている。
舞台に出れば恐らく僕たちは踊らされる。
奴の炎によって。
天井はドーム上になっており、かなり高い。
それこそバケモノが暴れても差し支えないぐらい。
僕たちは報告書を見直す。
そして今回の作戦の確認をする。
僕はルーニャから支給された『アイスフラワー』のうち、
一本を取り出し使用した。
緑の帽子とオーバーオールの色がたちまち水色と白色に変化する。
アイスルイージ。
炎の変わりに氷の力を使うことができる。
炎にはない様々な使用用途があるが、純粋な攻撃力は炎の力より劣る。
しかし、今回は相手に炎が通じない。
デメリットは皆無だ。
背中に背負っているスピネルは、
すでにカーバンクル特有のリスに似た姿になっている。
今回は僕が彼女を背負いながら戦う。
「・・・補助魔法をかけるよ。」
「ああ、お願いするよ。」
魔法の盾
≪マジック スカトゥム≫
守護
≪プロテクション≫
力
≪オポリメイト≫
素早さ
≪クイックリー≫
心地よい旋律が次々とスピネルの口から発せられた。
僕たち二人は魔法の加護を受け淡く輝く。
「準備万端だ。行くぞ。」
僕たちは覚悟を決めて最深部に突入した。
トンネルを潜り抜けた瞬間、目の前が炎に包まれる。
奴の不意打ちだ。
あらかじめ両手に溜めていたFPを解き放つ。
≪ルイージファイナル≫
僕の両手から発せられた猛吹雪が、
目の前の火炎を切り裂く。
ようやく視界が確保され奴の姿を拝めた。
プロミネンス。
ファイアーパックンの亜種。
溶岩から生えている。
体はパックンが炎を纏っていると言うよりも、
炎がパックンの形をしていると言った方がしっくりくる。
茎からその大きな口まで全てが火炎で包まれ、
黄色と赤とオレンジに輝いていた。
その名に恥じない容貌だ。
纏っている炎はただの飾りではなく、
物理攻撃を完全に打ち消す。
見えている部分だけで僕の身長の三倍くらいはある。
プロミネンスは不意打ちに失敗したことが悔しかったのか、
体を震わせ機械が軋みあげるような不快な声で、僕たちに吼えた。
「こいつが!」
「・・・敵を・・・討つ!」
地面が少し揺れた。
僕はそれに反応して反射的に前へジャンプした。
その直後、僕たちのいたところから火柱が上がった。
よく見るとそれはプロミネンスの触手だった。
普通の火柱はうねりながら敵を追尾したりはしない。
≪アイスボール≫
僕は背後の触手を凍らせた。
凍っている間に地面に着地し、円形の舞台へと駆ける。
本体が火炎放射を放ってきた。
僕は大きくジャンプしてそれをかわす。
ようやく僕たちは舞台へ到着した。
「ルイージ!後ろ!」
僕はとっさに横に回避する。
さっき凍らせたはずの触手が真横を通り抜ける。
もう溶けたらしい。
油断も隙もない。
また本体から火炎放射が放たれる。
今度は舞台の広いスペースを活かし、横に大きく跳ぶ。
着地した瞬間バック転で後ろに下がる。
予想通り目の前に火柱が立つ。
戦いにおいては敵をよく知るのが定石だ。
僕は攻撃をかわしつつ奴の動きを見る。
攻撃をかわすごとに触手の数は増えていき、
最終的に六本になった。
≪アイスボール≫で凍らせたり、
ジャンプで攻撃を避けていくうちに、相手の行動パターンが読めてきた。
本体の火炎放射。
巨体を活かした物理攻撃。
触手の物理攻撃。
報告書通りだ。
だが、攻撃方法よりも注意すべきは奴の賢さだ。
プロミネンスはその戦略からして実に狡猾だった。
不意打ちで相手の隊形を崩し、触手で一人ずつ確実に打ち倒していく。
触手は位置関係を非常によく理解しており、
絡まることはまず、ない。
それどころか触手同士で見事な連係プレーをいくつも披露してくれた。
溶岩に浮かぶ本体は相手の技を見て間合いを調節し、
相手の攻撃があたらない位置に常に移動、
常に自分を守れる位置に最低一本の触手を周りに配置、
火炎放射でけん制、
時には溶岩の中にもぐり触手から伝わる情報で相手を察知し、
山なりに溶岩を吹いたりする。
見て、考えて、対策を立て、動きを予測し、的確に不意打ちする。
理性のないただのバケモノには到底できっこない芸当だ。
僕が攻撃を避け続けていると、スピネルが背中をたたき、
攻撃に移る合図をした。
僕がスピネルに
「わかった。」
と言うと、彼女は魔法の詠唱に入る。
しばらくして、
プロミネンスがこの場所にはあまりにも場違いな猛吹雪に襲われた。
氷
≪グラシアス≫
吹雪で奴の火炎が吹き消えた。
真っ黒に染まった奴の「芯」が見える。
ビッグパックンをシルエットにしたらこんな感じになるのだろう。
黒い巨大パックンは動くことをやめ、触手は全て地面に消えた。
プロミネンスの体表の炎は
水や氷属性の攻撃でかき消すことができる。
しかし、本体そのものは熱にも冷気にも非常に強い。
ただし、炎を再び纏うまでの間は回復に集中するため、
触手は溶岩へと戻り本体は動きを止める。
そして何より、
炎のシールドがなくなったことにより物理攻撃に劇的に弱くなる。
それが奴の唯一の弱点だ。
それを見つけるために勇敢な四人の戦士は病院送りにされた。
僕はそれを無駄にしないためにも、奴に勝たなくてはならない。
僕は持ち前の跳躍力で無防備なプロミネンスに飛び乗り、
拳を何度もたたきつける。
だが、ほんの数秒で茎の根元から火炎が蘇っていった。
僕は去り際に蹴りを放ち、奴から離れる。
「・・・なんて生命力。」
スピネルがその再生の速さに驚いていた。
また触手との戯れが始まる。
ルイージの小説
To Be Continued