ルイージの小説 14 後編 第三章 幸福の宝石
数メートル離れて僕と黒いリスが向かい合う。
あくまで試験だ。
僕は攻撃しない。
ただ、受けるのみ。
戸惑いの表情を隠さずに彼女は呪文を唱え始める。
心地よい旋律と共にスピネルの周りに微風が巻き起こり、
漆のように黒い体毛がわずかに揺れる。
雷
≪トリトルア≫
とっさに大きく後ろに飛びのく。
目の前がフラッシュし、すさまじい破裂音が耳に突き刺さる。
思わず僕は顔を腕で覆う。
砂の煙が少し遅れて僕に降りかかった。
腕の隙間から様子を見てみると、
さっき僕のいた場所に落雷の後があった。
地面が黒く焦げ付いている。
スピネルの美しい旋律はまだ止んではいない。
火炎
≪フラーマ≫
≪ファイアーボール≫のような火炎弾が僕の視界を包んだ。
僕は反射的に火炎を腕でなぎ払う。
氷柱
≪コルーメン グラシアス≫
油断した。
突然、氷の柱が僕を包んだ。
最初に放った雷と火炎弾は囮で、本命はこの魔法らしい。
さっきのショーで氷像の元として使われたのと同じ魔法だ。
体から体温が奪われ感覚が失われていく。
死ぬほどの寒さではないが、
抜け出したとしても体の動きは鈍くなっていることだろう。
おそらく、相手の拘束を目的とした魔法だ。
僕は体内のFPを一気に開放し氷の柱から脱した。
≪闘気≫
「冷や冷やものだにゃ、氷だけに。」
氷から抜け出したのに冷たい駄洒落に襲われた。
一方スピネルは平然と氷から抜け出した僕を見て驚いていた。
おそらく、この嫌な戦いを速攻で終わらせるべく、
僕を凍らせたのだろう。
「悪かったね、スピネル。
僕は打たれ強いんだ。」
スピネルは無言で魔法を放ってきた。
表情には焦りが見える。
本当に早く終わらせたいらしい。
拘束
≪ランティア≫
今度はスピネルから放たれた真っ黒なツタのようなもので体を縛られた。
≪サンダーハンド≫
だが雷の掌によってそのツタも千切れる。
疾風
≪ガーレ≫
今度はかまいたちが僕を襲う。
・・・もうこれ以上、スピネルの悲壮な顔を見たくない。
FPを足に集中。
溜めたFPを移動の為のエネルギーに変え、光のごとき速さで移動する。
≪鉄斬光≫
かまいたちは僕に触れることすら出来ず掻き消えた。
スピネルには僕が瞬間移動したように見えているのだろう。
いま、僕の目の前には無防備なスピネルがいる。
僕は何がおきたのかわからず驚き慌てふためくスピネルの
手を軽く握った。
「魔法も使いようだね。
スピネル。」
すると、スピネルは幾分か平常心を取り戻した。
よくみると肩で息をしていた。
呼吸も荒い。
はぁっ・・・はぁっ・・・。
という苦しそうな声が口から漏れていた。
極度の緊張でかなり疲弊している。
信じられないかもしれないが武道の試合になると、
向かい合っているだけで極度の緊張とプレッシャーで恐ろしいほど疲弊する。
スピネルは今それを直に感じている。
この様子を見るとスピネルは戦い慣れしていない。
もしくは僕相手では無理があったのか。
どちらにせよ、僕はスピネルを背中に背負い、
「猫の手」まで戻ることになるだろう。
スピネルと手合わせしてわかったこと。
それは攻撃よりも足止めに特化していることだ。
恐らくスピネルの師はスピネルに他人を傷つけるような魔法を、
教えたくなかったのだろう。
向こうの世界にスピネルの理解者がいる。
そう思うと僕は少し安心した。
ルイージの小説
To Be Continued